フィクションなどから拾う情報処理用語? その19 なりすまし (必殺仕掛人)

必殺仕掛人 第10話 「命売りますもらいます」(脚本:國弘威雄、監督:松野宏軌 (C) 松竹)より

伊助は兄巳之吉の仕掛け(要するに殺害)を音羽屋半右衛門に依頼した。
音羽屋半右衛門から依頼があり西村左内と藤枝梅安が仕事に取り掛かる事になった。
この頃、命講(要するに生命保険)が流行っていたが、岬の千蔵や櫓の万吉の調査では命講(要するに生命保険)絡みではなさそうということが判明していた。
なお今回音羽屋半右衛門は一切登場しない。
演じる山村聰が京都へ来られなかったのだろう。

紆余曲折の末、巳之吉は藤枝梅安の針を受け、西村左内に斬られたが

伊助「ありがてえ。これで。」

驚く二人。なんと巳之吉は伊助だったのだ!
虫の息の伊助が話す。

伊助「お許しくださいませ。私にはこうする以外に。」

呆気に取られる左内と梅安。

伊助「おりん(妻)や吉太郎(息子)を助ける道は…」
梅安「伊助…」

伊助は懐から証文と書状を出した。

伊助「こ、これを、お願いします。」

梅安は厳しい顔。左内は呆然としながらも伊助から証文などを受け取った。

伊助「許してください。どうか、どうか、お許しを。」
西村左内「伊助、おい。おい。伊助。」

伊助は死んでしまった。左内と梅安は呆然と見るしかできなかった。

後日。滝の近くでボーっと寝ている西村左内の脇に伊助が残した遺書が置かれていた。

伊助の声「よんどころなくとは申しながら皆々様を欺くような仕儀となり申し訳なく存じ候。家内おりんの治療の金につまり、度重なる兄の金の無心に商いさえ行き詰まり、人に誘われ、米相場への手出しが大きく狂って200両もの借財。これもこの月末に返さねば手が後ろへ回る仕儀となり私の命と引き換えるより他になく万策尽きてのことでございます。折しも突然一月前に、風邪をこじらせて死にました兄を生きているように見せかけ、兄ともども昔かけ小屋の軽業師や芝居小屋の芸人、その時、習い覚えた含み綿で声を変え、私が兄になりすまし、音羽屋様にお願いしたが如く私が斬られ、私の命講の残金にて。」

要するに生命保険金殺人事件の片棒を仕掛人は担がされたのである。借金返済と仕掛料は自分に掛けられた生命保険の保険金で賄うのだ。そこへ藤枝梅安がやってきた。

藤枝梅安「伊助の命講500両は後藤屋清左衛門が払いましたよ。奉行所と後藤屋でだいぶうるさく調べ回っていたらしいが、へ、結局は何にもわからずじまいさあ。あ、それから女房は子供と一緒に引き取られて田舎に帰りました。伊助の残した大金でゆっくり養生できるし、これからの暮らしの心配もさらさらない。伊助はもし命講の金が入らなきゃ米相場の借金で訴えられ、女房、子供と一緒に死罪か遠島になるところだった。どうしても女房と子供を助けたかったんでしょうねえ。」

左内は起き上がって何か言おうとしたが梅安が押し留めた。

藤枝梅安「いやいや、何にも言いっこなしだ。あたし達仕掛人は頼まれた通りの仕事をする。狙った獲物を確実にね。それでいいんですよ。」

現実主義者らしい藤枝梅安の言葉である。

それを聞いても虚無感が残る左内。左内は本来は生真面目なのである。左内にも妻と息子がいるし浪人だったので仕掛人になる前は貧乏だった。伊助に共感したのかもしれない。

西村左内「しかし、梅安殿。俺達仕掛人は、因果な…はあ、無情な世の中だね。」

すると梅安は左内の真似して笹笛を吹こうとしたが、ちっとも鳴らない。3回やった後、笹の葉を放り投げてしまった。ここでふざけるのが梅安らしいところである。それを呆然とみる左内であった。