フィクションなどから拾う情報処理用語 その16 サンドボックス (機動刑事ジバン)

機動刑事ジバン第51話「幻のマユミを斬れ!」(脚本:杉村升と荒木憲一、アクション監督:山田一善、監督:岡本明久、特撮監督:矢島信男 (C)東映)より

1987年にアメリカでRoboCopという映画が公開された。
制作に先立ち、監督のPaul Verhoevenは『宇宙刑事ギャバン』のコピペもとい、
宇宙刑事ギャバン』のデザイン引用の許諾を求める手紙を
バンダイ村上克司へ送っていた。
『機動刑事ジバン』はRoboCopを逆輸入して制作された番組である。

さてここはジバンの敵バイオロンのアジト。

マッドガルボ「手を止めて聞け。ドクターギバから話がある。」

マスク(要するに戦闘員)達は直立不動で話を聞いた。

ドクターギバ「いよいよ日本侵略の時が来た。もはやジバンは死んだも同然。今こそ、この地上にバイオロンの帝国を築くのだ。」

悪の組織の皆さんは帝国を築くのがお好きなようだ。

マッドガルボ「作戦は二つ。まず一つ目は東京にある重要拠点を占拠して政府に対して降伏を突きつける。そしてもう一つはジバン基地を発見してこれを壊滅する。基地を失えば奴はますます孤立する。A班、B班は警視庁を襲撃して警視総監室にある重要機密書類を押収しろ。ここにジバン基地の場所が書かれているはずだ。C班、D班は国会議事堂の占拠。E班はテレビ局。」

映ったのはテレビ朝日であろうか?

かくして作戦は実行に移された。
ジバン基地の皆さんもこれを察知した。

ハリーボーイ「大変です、柳田さん。警視庁が襲撃を受けています。」

ハリーボーイはロボット。元々はハリーというコンピュータとボーイというマスコットロボットとに分かれていたのだが、ボーイが一度機能を停止した時に合体して誕生したのだ。柳田誠一はジバンの上司に当たるような人である。ジバンの階級は警視正。あの丹波哲郎が「Gメン'75」で演じた黒木警視正と同じなのだ。と言うことは柳田の階級ももっと上なのだろうが、明確には知らない。閑話休題

柳田「わかってる。」
ハリーボーイ「その他の拠点も次々に敵の手に落ちています。」
柳田「今すぐバイオロン基地を叩く以外、敵の攻撃は止められない。」

え? どうやって? と思ったのだろう。ハリーボーイは聞いた。

ハリーボーイ「今まで散々やってきたのにバイオロンの科学との違いで敵の基地は依然不明です。」

すると柳田はあっと驚く作戦を発案した。

柳田「ハリーボーイ。ジバン専用電波をガンガン飛ばせ。」

その斜め上を行く作戦をハリーボーイは理解できず、こう聞き返した。

ハリーボーイ「そんなことしたら、ジバン基地の位置がいっぺんでバレてしまいますよ。」

柳田はそれを受けて驚愕の言葉を発した。

柳田「それが狙いだ。」
ハリーボーイ「え!?」

柳田は落ち着き払ってこう言った。

柳田「敵にジバン基地攻撃のミサイルを発射させるんだ?」

正気なのか? 柳田は真顔である。

ハリーボーイ「そして?」
柳田「その発射の瞬間をレーダー偵察衛星キャメラで捉える。バイオロン基地の位置を突き止め、ジバンに突入させる。」

ここでまた柳田がドアップになった。

柳田「肉を切らせて骨を断つ。危険は承知の上の捨て身の戦法だ!」

柳田はそこまで考え抜いていたのである。
ハリーボーイも覚悟を決めた。

ハリーボーイ「了解。」

直ちに作戦が実行された。
流れるのは「大鉄人17」のBGM。
「機動刑事ジバン」のBGMは他番組からのコピペもとい流用が実に多い。
大鉄人17」のBGMは流用頻度が高かった。
もっとも「大鉄人17」が制作されたのは1977年。
「機動刑事ジバン」が制作された1989年の12年前である。
当時の子供達は「大鉄人17」など観ていなかったであろう。
関東地方でTBSは毎日放送制作の「大鉄人17」を再放送してくれなかった。
ウルトラシリーズは再三再四再放送されたが。
で私も「機動刑事ジバン」はたまに観ていたが「大鉄人17」のBGMなど忘れ去っていた。
閑話休題

バイオロンはその撒き餌に飛びついた。

マッドガルボ「ジバン基地の電波だ。バカめ。簡単にわかってたまるか。逆探知しろ。ジバン基地を発見してミサイルを撃ち込め。」

マッドガルボはバイオロンの基地を探索するための電波(最終目的はそれなので間違ってはいないが)だと考え、そう命じた。柳田の目論見通りになったのである。
そしてバイオロンはミサイルを用意した。白い色で塗られている。

一方、ジバン基地では

柳田「民間航空も他の飛行機も今は一切飛ばしていない。飛行物体が現れたら、バイオロンのミサイルに間違いない。見逃すな。」
ハリーボーイ「わかりました。」

流れる宇宙刑事シリーズのBGM。これも「大鉄人17」同様、渡辺宙明の作曲だ。「機動刑事ジバン」のために曲は作られなかったの? 実は渡辺宙明は曲をたくさん作っていた。元々は若草恵が担当する予定だったのだが諸事情によって渡辺宙明に代わり、渡辺宙明は短期間でたくさんの曲を作る羽目に陥った。にも関わらず新曲が使われたのはごく僅かだったのである。当然渡辺宙明は怒り、以後、東映作品からの発注を断り続ける事態となってしまった。閑話休題

マスク「ジバン基地の位置を探知しました。」
マッドガルボ「ミサイル発射!」
マスク「は!」

こうしてミサイルが撃ち込まれたのだが、そのミサイルをよく見ると、黒十字軍のマークが。なんとミサイル発射の一連の場面は「秘密戦隊ゴレンジャー」の映画「秘密戦隊ゴレンジャー 爆弾ハリケーン」からのコピペもとい流用だったのである。うーむ。東映はなんでも流用するのだなあ。もっともこの場面は「大鉄人17」でも流用されているが。なお特撮監督の矢島信男は過去映像の流用が得意技だった。閑話休題

ハリーボーイ「現れました。バイオロンのミサイルに間違いありません。あと1分でここに到着します。」

柳田の狙い通りになったのだ。

柳田「発進地はどこだ!」

流石に興奮して訊く柳田。

ハリーボーイ「判明しました。北緯35度57分30秒、東経138度52分15秒。」

なおも黒十字軍のミサイルもといバイオロンのミサイルが飛ぶ。この話を私は本放送で観ていなかったし、貧乏だったのでゴレンジャーの映画を観ていなかったので当然私は気づかなかった。気がついたのはつい最近である。

柳田「脱出しろ、ハリーボーイ。レゾン、バイカン、スパイラス、回線を繋いだ。お前達も脱出するんだ。」

柳田はジバンのため、レゾン、バイカン、スパイラス(順番に自動車、オートバイ、小型飛行機)を脱出させたが

ハリーボーイ「柳田さんは?」
柳田「緊急無線でジバンにバイオロンのアジトの位置を教える。」
ハリーボーイ「だったら、僕も残ります。」
柳田「バカ。私は最後まで基地を守るとジバンに約束した。だから残るんだ。」

柳田はハリーボーイを脱出させようとしていたのだが

ハリーボーイ「だったら僕だって同じです。」
柳田「早く脱出しろ!」

そんなやりとりがあるとは知らないマッドガルボは

マッドガルボ「バカめ。これでジバン基地もおしまいだ。」

無邪気に高笑いした。

ついに黒十字軍の、もとい、バイオロンのミサイルがジバン基地に命中。

ハリーボーイ「うわあ。」

柳田もハリーボーイも倒れてしまった。
ありとあらゆるものが爆発しまくる中、柳田は力を振り絞って席に這い寄り

柳田「ジバン、応答しろ。ジバン。」

ハリーボーイも席に戻っていた。

ハリーボーイ「ジバン。どこにいるの、ジバン。」

その頃、ジバンこと田村直人は山の上で道着を着て、座禅を組んで瞑想していた。
そうしている経緯は紙面の都合で書けないので前話の映像を観て確認して欲しい。
だが観なくてもその理由は後である程度わかると思う。

柳田の声「応答しろ、ジバン。応答しろ。」

その声に気がついた直人は目を開けた。

直人「緊急無線だ。」

直人は懐から電子警察手帳を取り出した。
ジバンがバイオノイドに水戸光圀公の印籠のように見せつけて対バイオロン法を告げる時に使う、あの電子警察手帳である。「機動刑事ジバン」は地球の裏側のブラジルでは大人気で田村直人を演じた日下翔平さんは引退後に何度も何度もブラジルのイベントへ呼ばれたそうだ。で日下さんはその電子警察手帳を舞台で観客に見せつけて対バイオロン法を告げる羽目に陥るのだが、田村直人の姿でそうしたことなど全くないため、それをやる度に困惑するそうである。閑話休題

直人「どうしたんですか、柳田さん。」
柳田「バイオロンのアジトの位置がわかった。北緯35度57分30秒、東経138度52分15秒。」

書き忘れたが流れている曲は「秘密戦隊ゴレンジャー」で使われた曲のようである。黒十字軍つながりだあ(違います)。だが

柳田「うわあ。」
ハリーボーイ「きゃあ。」

二人(?)とも力尽きて倒れてしまった。

直人「どうしたんですか、柳田さん。」

直人は何度もボタンを押した。電話機なのだろうか? と言ってわかる世代は年寄りになってしまいましたねえ。それは兎に角

直人「ハリーボーイ!」

直人は覆面パトカーで急行。スーツに着替えている。

直人「柳田さん。ハリーボーイ。」

だが応答はない。ジバン基地についた直人は爆発しまくる中、走った。
そして司令室について絶句した。
とその時、

ハリーボーイ「ジ、ジバン。」
直人「ハリーボーイ! しっかりしろ。」

直人は仰向けに倒れていたハリーボーイを抱き起こした。

ハリーボーイ「ジバン。機能が停止します。機能が…」

点滅していたハリーボーイの両目の光が消えた。

直人「ハリーボーイ。ハリーボーイ。」

しばらく絶句する直人だったが、その後、今度は柳田がいることに気がついた。

直人「柳田さん。」

直人はこれまた仰向けに横たわっていた柳田のところに駆け寄った。

直人「大丈夫ですか。」
柳田「田村君。」
直人「今すぐ病院へ。」

だが柳田は最後の力を振り絞ってこう言った。

柳田「いや、私はもうダメだ。それより田村君、無の境地に立つ事はできたのか?」

直人は絶句した。

柳田「もう君しかいない。バイオロンと戦えるのは君しか…」

直人は柳田を抱き起こした。

直人「柳田さん。」
柳田「バイオロンを倒し、地球を守ってくれ。そしてまゆみちゃん(間下このみ)を無事に救い出すん…」

それが柳田の遺言だった。

直人「柳田さん、柳田さん、柳田さん、柳田さん、柳田さん。」

直人はボロボロになった司令室の中で柳田をずっと抱きしめるのであった。
サンドボックスがあれば防げた悲劇であった。