なりすまし(暗闇仕留人)

暗闇仕留人 第13話「自滅して候」(脚本:野上龍雄、監督:松本明 (C) 松竹)より

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第13話「自滅して候」1974.9.21

 我が子の出世を望む母の思いは狂気を呼び、悪魔の囁きのままライバル殺害を依頼するまでに膨れ上がる。しかし、土壇場で思いとどまり断った筈の「願い」は何者かの手により実行され、脅され大金を強請り取られる日々がはじまり、最後には親切面した男が欲望を剥き出しにして迫り来ることとなる。子の家庭教師をしていた貢は、母の自死を繕ってやったあと仲間たちの前で遺書を読み上げ仕置を迫るのだった。

 ロケ地、中根邸、不明。小一郎を釣りに誘う貢、大覚寺放生池堤。釣りのおじさん「半次」が待っているのは護摩堂前。中根の奥方を待っている脅迫者の浪人、今宮神社石橋上。たかり屋の弥八が待っていて金をせびる、高倉下。墓ができたと呼び出した漢学者・佐島昌軒を始末する墓地、化野念仏寺(鐘楼~石仏群脇)。ラスト、貢と釣りの小一郎、桂川堰堤下河床。
*タイトルのままの「自滅」を遂げる佐島昌軒、墓石を割るシーンはもちろんだが、日々頭を打ちつけている自室の柱がまぁるく刳れているのが怖い。

厳密には「なりすまし」とは言い難いのかもしれないが、村雨の大吉の名前を使って佐島昌軒(山本学)という儒学者が中根ちづ(南田洋子)の家督を狙って暗躍する話である。ちづは大吉の家を訪れて息子のライバル殺しを依頼しようとするのだが、思いとどまって取りやめる。大吉の方は何が何だかわからず、それ以来、きれいさっぱり忘れ去っていたのだが、何故か息子の学友は殺されてしまう。ちづに大吉の存在を仄めかしたのが佐島昌軒。彼はちづの息子の家庭教師を務めていた。その一方で彼はたかり屋の弥八(江幡高志)と組んで悪事を働いていた。ちづの息子のライバルを殺したのは弥八の仲間の浪人の仕業だった。だが悪い事はできないものでちづの息子には糸井貢も家庭教師についていた。そこから真相が段々と明らかになっていく。弥八と佐島昌軒の繋がりは最終的には主水が聞き出すのだが、直後に主水が弥八を斬っている。

さて佐島昌軒は儒学者なのだが走って突進して頭突きで倒す凶悪な技の持ち主。技が決まる瞬間は肋骨が折れるレントゲン映像まで入る凝りようで強敵なのは間違いない。そんな強敵なので貢と大吉の二人がかりで仕留める事になる。仕留料は大吉が作った佐島昌軒の墓石のために支払われた金が流用された。最後、佐島昌軒は「佐島昌軒之墓」に頭突きを食らわせて粉々にしたところを大吉によって心臓を止められるのだが、その墓石には

九月二十一日 歿
享年 三十八才

と掘られていた。年は映っていないがおそらく「嘉永六年」なのだろうと思う。

貢はちづの自害の後始末を行なって彼女の遺書を持ってきたのだが、それを紹介する時の表情は沈痛なものだったことを付け加えておこう。