再利用(帰ってきたウルトラマンとイナズマンF)

私も年老いて記憶力が減退し、ついにはAKB48のメンバーの区別がつかない(と言っていたと思う)ラビーこと関根勤さんを笑えなくなってきているのだが、無駄な知識は赤子の頃よりは確実に増えているのも確かだ。最近は録画装置の発達やテレビの多チャンネル化や東映特撮ファンクラブなどのサブスクリプションサービスの充実などで昔の番組を見返すことも簡単にできるようになった。これはイナズマンF 第23話「さらばイナズマン ガイゼル最期の日」(脚本:上原正三、監督:塚田正煕、技斗:高橋一俊 (C) 東映東映エージェンシー)をボーっと観ている時に気がついたものである。渡五郎とともにデスパーシティーに潜入した荒井誠が妻の千津子(野口ふみえ)が島崎藤村若菜集の読書会をしているところに出会して、という場面だ。

荒井千津子「さあ、今日はみんなで島崎藤村若菜集を読みましょう。『まだあげ初そめし前髪の林檎のもとに見えしとき』」
一同「『まだあげ初そめし前髪の林檎のもとに見えしとき』」
荒井誠「(その様子を聞き)千津子…」
荒井千津子「『前にさしたる花櫛の花ある君と思ひけり』」
荒井誠と荒井千津子「『やさしく白き手をのべて』」
荒井千津子、何かに気がつき読む声を止める。
荒井誠「(続けて)『林檎をわれにあたへしは薄紅の秋の実に人こひ初めしはじめなり』」
荒井千津子「(荒井誠の存在を確認し)あなた…」

そして荒井誠は荒井千津子と娘のルミ(上田里美)と再会するのだ。

実はこの場面、元ネタがある。正確にはあると思われる、と書くべきなのだろうが、上原正三さんが亡くなってしまった今、それを確認することはできない。だが、帰ってきたウルトラマン 第1話「怪獣総進撃」の脚本にこういう場面があるのだ。郷秀樹が亡くなった後、復活した直後の場面である。以下、朝日ソノラマの『24年目の復讐 上原正三シナリオ傑作集』より引用しよう。

郷の部屋(二階の裏部屋・朝)
  アキが入ってくる。
  窓が一つ。小さな机とベッド。
  壁にはレースカーのピンアップが多数。
  アキ、古いギターを手にする。
  「母さんの歌」のメロディーを弾く。
  いつも郷がギターを抱えて口ずさんでいた。
アキ「母さんが夜なべをして、手袋あんでくれた。木枯らし吹けば冷たかろうて…」
郷の声「せっせと編んだだよ。故郷の便りがとどく、囲炉裏のにおいがする…」
アキ「(…思わずハッとなって見る)」
  そこに郷が来ている。
アキ「……(愕然)」
次郎「郷さんだよ、生きてる郷さんだよ。姉ちゃん」
郷「天国よりアキちゃんの側がいいと思ってね(といたずらっぽく笑う)」
アキ「……(声もなく郷の胸にとびこむ)」

残念ながらこの部分は丸々カットされて、帰ってきたウルトラマン第1話「怪獣総進撃」(脚本:上原正三、監督:本多猪四郎、特殊技術:高野宏一 (C) 円谷プロ)となった。これが映像化されたのを私は観たかったなあと思う。