業者任せのIT設備〜発注側も勉強しよう

先週の三連休、私は関門海峡をぶらぶらしてきました。その帰り道、1月9日に私は新大阪のホテルに宿泊しました。楽天トラベルでの案内ページによれば「全室有線LAN対応」と書かれていたので、持ち込んだコンピュータをLANケーブルに接続したところ、外のネットワークに全く繋がりません。このホテルで外のネットワークへつなぐ手順は次のとおりだと机の上にあった説明書には書かれていました。

  1. 1. LANケーブルをお手持ちのパソコンに接続してください。
  2. 2. WEBブラウザを起動し、画面上に右のような画面が表示されることをご確認ください。
  3. 3. インターネット、メールをご利用の方は“基本サービス24時間”ボタンをクリックするとインターネットへ接続完了です。

ところが、2. の手順に移っても説明書に描かれているような画面が表示される気配がありません。そこでフロントに電話すると、彼らはこのようなことを言いました。

インターネットのことはよくわからないので、そこに描かれている電話番号に電話して業者に訊いてくれ

私は思わず「は?」と言いそうになってしまいました。仮にもサービスを提供しているのですから、まずホテル側でどういう現象が起きているのかを把握してから自分たちで対処できることは対処し、対処できないようなら業者にホテルから連絡するのが筋でしょう。ところがこのホテルはその第一段階の処置も放棄し、業者に丸投げしているのです。その理由は「インターネットのことはよくわからない」からなのです。いくらなんでもこれは無責任すぎるのではないでしょうか。


これが「テレビが映らない」だとどうなるのでしょうか。おそらくフロントの対応も変わってきたはずです。まず新品のテレビに交換するなり、アンテナの具合を調べたりすることでしょう。そのあとで電器屋などに連絡して対処させる流れになるはずです。それが「インターネット」だとなぜこうならないのでしょうか。サービスとして提供していることを「全室有線LAN対応」と書いてうたっているのであれば、そのホテルは「インターネット」のサービスを提供している業者です。ところが自分では管理ができないのです。客から文句が来たら「自分達はインターネットのことはよくわからない」と言って対処しないというのは、やはり無責任すぎやしないでしょうか。


もっとも、ネットワークに関しては皆こんな感じなのでしょう。ネットワークのことはわからないから業者任せ。自分達は勉強せずに業者の言いなり。これでは悪徳業者にあたったとしても真贋を見抜くことなどできません。業者に騙されてもわからないでしょうし、値段もサービス品質もよくならないでしょう。でも実際にこれが遠因で一つの事件が起きています。俗にLibrahack事件と言われている事件です。これはLibrahackというハンドルを名乗っている人が岡崎市立中央図書館Webサイトから新着図書データを自動で取得するプログラムを実行し、同サイトの一部機能を利用できない状態にしたため、逮捕されてしまった事件です。被疑者は起訴されず起訴猶予になっているため、有罪になっているわけではありませんが、実名で報道されたり拘留されたりしたため、それなりの「被害」は受けています。この事件、Webサイトの運営に支障をきたす状態に陥れてしまったLibrahack氏、Webサイト構築と運用を発注していた岡崎市立中央図書館、実際にWebサイトを構築して運用していたMDIS、さらに警察それぞれに考えなければならない問題があると私は思いますが、一番問題があるのは、図書館とMDISでしょう。図書館担当者は情報システムに精通しているわけではなく業者にお任せの状態だったようです。そのためシステムの欠陥を放置したMDISの言いなりになっていたところがあり、問題を大きくした点があったようです。


こんな問題を予防するにはどうすれば良いのでしょうか。その回答になりそうな話を私はオープンソースカンファレンス 2010 Fukuokaで聞いてきました。それが長崎県庁総務部理事を務める島村秀世さんが発表された「脱 おんぶにだっこ〜利用者による利用者のためのクラウドシステム」(PDF/819KB)です。これは業者任せではなく発注する時に自分達でもよく調べて発注するという話です。そんなことができるのでしょうか。それはそれほど難しい話ではありません。資料の7ページ目にある次のやり方を実践するだけなのです。

[業務量の適切化]
1.作業を分割し、職員が困らないサイズにする。
2.少しずつ理解し、理解した部分の開発をする。
[業務の明確化とプロのサポート]
1.仕事の流れをポンチ絵にするのは職員の仕事
2.絵を綺麗な画面デザインにするのはプロの仕事
3.仕事の流れを設計書にするのはプロの仕事

※ 自身に足りない技術を買うのは当たり前!!

要約すると「仕事を細分化し、自分達でやれる部分だけをやる。出来ないところだけを外注する。」ということです。これだけでいいのです。自分達で汗を流せばシステムの概要が見えてきます。すべて業者任せでは何も見えてきません。それに仕事を小さく細分化しておけば、自分達が勉強すべき事柄も見えてきますし、業者のやり方の良いところや悪いところも分析しやすくなります。業務改善や業務の効率化にもつながり、予算削減にもつながるのです。


日本の役所の発注や一般企業のアウトソーシングでは「すべて業者任せ」というのがまかり通っていますが、そのやり方では早晩行き詰まります。自民党政権菅直人内閣が行き詰まったのもこれが原因なのではないでしょうか。小さく細分化するやり方は大学や企業の研究所で行なわれていたやり方でもあります。Small is beautiful. UNIXではこれが当たり前でした。オープンソースも当たり前の話でした。しかしいつしか、Microsoft などが出している有り物を使えばいい、という風潮が蔓延り、オープンソースの考え方は一旦廃れてしまいました。でもそのやり方に限界があることがみえてきました。今こそ基本に立ち返り、システムを組むことが必要なのではないでしょうか。「自分達はインターネットのことはよくわからない」と言って丸投げするのではなく、小さなことからコツコツと勉強していくことが大切なのではないでしょうか。私はそう考えます。