データ圧縮(影の軍団IV)
ボーッと生きている間に時が過ぎ、このブログも記事を書かないうちに3ヶ月近くが過ぎてしまった。東映YouTube時代劇では『影の軍団IV』の『金曜時代劇』枠での配信が2023年12月1日に終わり、2023年12月15日から『影の軍団 幕末編』の配信が始まった。最終回の第27話配信時はX(旧Twitter)などでも盛り上がったのだ。『影の軍団IV』最終話を観てJACに入る事を決めたと中川素州さんはXに投稿していた。つい最近も伊原剛志さんが澄川真琴さんが投稿した当時の写真を見つけて感想を述べたりしていた。
だが、YouTube配信時、公開されていた第1話と第27話は「60分枠」であった。制作局の関西テレビ、および、同時ネットしていた放送局では両話とも本放送時は「90分スペシャル」だったのである。なので本来は「90分スペシャル」のものを公開して欲しかったのだが、そうはならなかった。その理由は明確には知らないが、そもそも何故「60分枠」のものが存在するのだろうか?
よく言われるのは「再放送のため」と言う理由だが、それは多分、結果的にそうなったのだと思う。おそらく遅れネットしている放送局の編成上の理由だと思う。
私は関東地方に住んでいたので全キー局の番組をほぼ全て(『仮面ライダースーパー1』のジンドグマ編はTBSの冷遇(意見には個人差があります)により毎週土曜日午前7時(!)から放送という時差ネットだったが当時は時差ネットだとは全く気づかなかった)同時ネットで観る事ができたのだが、関東地方以外はそうではなかった。関東地方では日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京の5つのキー局があるのだが、他の府県で5つ放送局が揃っているわけではない。必然的に、一つの放送局で複数のキー局の番組をネットする場合が多々あり、同時ネットされない府県も存在したのである。以下の県が遅れネットになっていた。中にはフジテレビ系列でありながら遅れネットを行なっていた放送局も存在する。
遅れネットの場合、60分の枠をなんとか確保して放送していると思われる。なので「90分スペシャル」を90分の枠に拡大して放送するのは困難だったのではないだろうか。特に大分県と宮崎県は当時は地上波民放が2局しかなかった。調整が大変なのは明白である。だが「90分スペシャル」となった話を抜いて放送するわけにも行かない。それが「60分枠」のものが作られた理由なのであろう。
さて圧縮のアルゴリズム自体は以前取り上げたので、こちらを参考にして欲しい。
hirofumitouhei.hatenadiary.org
余談だがいわゆる平成ライダーはテレビ朝日が制作局になっているが、結果的にはそうなってよかったのではないかと思う。仮面ライダーアマゾン本放送時までは関東地方ではNET、今のテレビ朝日で放送されていた。NETは仮面ライダーの再放送も熱心に行なっていた。TBSは仮面ライダーシリーズをごくわずかしか再放送しなかったのである。
再利用(仮面ライダースーパー1)
ネタは溜まるけど書く時間が取れずにボーっと生きているうちに時が過ぎたある日、仮面ライダースーパー1 第34話「マサルがひろった魔法の赤ランプ」(脚本:江連卓、監督:山田稔、技斗:岡田勝 (C) 東映)を観ていて気がついた。なお、この話の相手はジンドグマのレッドデンジャー。戦闘場面は東映大泉撮影所で夜間に撮影されている。そしてレッドデンジャーの最期の場面となった。
仮面ライダースーパー1「スーパーライダー閃光キーック!」
キックが当たった。だがキックが当たった相手はなんとドグマのライギョンだった!
え?
え?
と思う間も無くレッドデンジャーは昇天した。
なおライギョン戦も東映大泉撮影所で夜間に撮影。仮面ライダースーパー1 第12話「強敵あらわる!赤心少林拳敗れたり」(脚本:江連卓、監督:山田稔、技斗:岡田勝 (C) 東映)からフィルムを流用したのは間違いないが、山田稔監督は既に亡くなっているので確認不能である。
模倣品 その2(あまちゃん)
あまちゃん 第24週「おら、やっぱりこの海が好きだ!」第139話(脚本:宮藤官九郎、演出:桑野智宏 (C) NHK)より
天野アキ(のん)が北三陸に帰り、皆が無事に生きていたが、それなりに色々あったことを知ってからしばらく経ったある日。北三陸観光協会でミーティングが開かれた。でその名称は大向大吉(杉本哲太)が考案した
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でこれは
の略であった。それを聞き
長内かつ枝(木野花)「長えよ、大吉。」
と文句が出たので
大向大吉「ごめん。気持ちが先走っちまって。」
とホワイトボードを消そうとしたのだが、その時、今野弥生(渡辺えり)が
今野弥生「うわーあーあーあーあー。」
と言う感じで叫んだ後、
今野弥生「未だ書き写してねえべ。」
と言った。それを聞き
大向大吉「懐かすぃー。」
と大吉が言うのを見て天野夏(宮本信子)は呆れ返っていた。
ちなみにこのネタ自体は2回目の使用。前回はこちらで登場している。
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『ビートたけしの学問ノススメ』で渡辺えりが演じた馬場志づ子役の定番ギャグ(ビートたけしが演じる夏目宝石が板書を黒板消しで消そうとすると馬場が大仰に叫んだ後、「まだ書いてないんです」と言う)が元ネタであろう。
会議(あまちゃん)
あまちゃん 第23週「おら、みんなに会いでぇ!」第136話(脚本:宮藤官九郎、演出:井上剛 (C) NHK)より
望郷の念(正確には違うような気がするが)が強くなり、北三陸へ帰りたくなった(これも正確には違うような気がするが)天野アキ(のん)はついに純喫茶『アイドル』で
天野アキ「ママ、おら、岩手さ帰りてえ。北三陸さ帰りてえ。」
と言ってしまった。黒川正宗(尾身としのり)と違って娘の気持ちをとっくの昔に見抜いていた天野春子(小泉今日子)はそれを受けて家族会議を開く事にした。春子は呆れ気味にこう尋ねた。
天野春子「本気なの?」
アキは頷いたのだが、春子は鋭い指摘をした。
天野春子「それ、何回目だ?」
アキは質問の意図を理解して、こう答えた。
天野アキ「4回目。」
ちなみにどういう勘定かといえば
- 海女になる
- 南部潜りをやる
- アイドルになる
- 北三陸へ帰る
である。
天野春子「わかってんだ。」
春子は腕組みしたまま、こう言った。
天野春子「じゃあ、ちょっと厳しい事、言ってみるね。本当にさあ、(ここで水口が入ってくる)やりたい放題なのよ、あんた。」
驚く水口に
甲斐「大丈夫。今、始まったところ。」
何が大丈夫なのかはよくわからないが、兎に角、水口は安心して(?)カウンターに座った。
天野春子「しかも、ぜーんぶ中途半端。」
実例を挙げた後、
天野春子「普通は、次のチャンス狙って踏ん張るの。ここで諦めたらB級アイドル止まりよ。」
話が聞こえていたからか
甲斐「B級にはB級の良さがあるよ。」
と呟いてしまったが、
水口琢磨「マスター。」
と嗜められた。脚本ではこの後、「結局あまちゃんなのよ、全てにおいて、プロ意識が足りない。」と春子が言うのだが映像化された時にカットされてしまった。「あまちゃん」というタイトルの意味が述べられたセリフだったのに。閑話休題。すると
天野アキ「諦めるわけじゃねえんだ。ただ、今はお芝居とか歌とかよりも気になる事があって。」
すかさず春子は尋ねた。
天野春子「何が気になってるのよー。言って見なさい。自分の口で。」
アキは答えた。その一言、一言が水口にも重くのしかかった。
天野アキ「夏ばっぱの事だ。それからユイちゃん、北鉄、海女カフェ、リアス、琥珀、みんなの事が気になる。北三陸のみんなの事が。」
やはりそうだったのだ。
天野春子「もうわかった。振り回される方も考えてよねえ。」
さて水口は気がついた。
水口琢磨「考えてみたらマスターって案外、キーパーソンですよね。」
甲斐「え?」
水口琢磨「春子さんがスカウトされたのもここだし、正宗さんが告白したのもここでしょ。このお店がなかったら『潮騒のメモリー』も生まれてないし、それどころか、あきちゃんも生まれてないのか。」
それを甲斐は自覚していなかった。
甲斐「ごめん。俺、テレビ観てたんで、テレビに夢中で全然聞いてなかった。いや、勿体無い。どうする?」
即座に
天野春子「どうするのよー。」
ここから思わぬ方向に話が進んでしまうのだ。
天野春子「私ねえ、18までしか親に育てられていないから、これ以降の育て方知らないからねえ。」
は? すると
黒川正宗「僕だって知らないよー、男だし、一人っ子だし。ただ。」
天野アキ「なあに?」
黒川正宗「この1年、3人で暮らして、すごーく楽しかった。その前に離婚して一人の時間が長かったから、余計にそう思うのかもしれない。うん。楽しかった。」
天野アキ「おらも今までで一番楽しかった。」
黒川正宗「ありがとう。」
思わぬ展開になり春子は困惑の表情である。立ち上がってこう言った。
天野春子「ほっこりしないでよねえ、勝手に。なあに、この空気? 最終回? 冗談じゃないわよ。人生はまだまだ続くのよ。」
それに対してアキも正宗も水口も、この言葉を聞いて何かを思ったようだが
天野春子「わかった。どうせ言っても聞かないんでしょ。好きにしなさい。」
こうしてアキは北三陸に帰ることを許されたのだが、話には続きがあった。
天野アキ「ママはどうするの?」
なんと、春子と一緒に帰るつもりなどアキはなかったのである。春子自身はアキについて一緒に北三陸へ帰る決意を固めていたので、こう訊かれて戸惑った。
天野アキ「東京へ残るよね。」
さらには
天野アキ「いいよ、(春子が北三陸に)来なくて。つーが、来ねえでけろ。」
とまで言う始末。その理由は
ずいぶん、失礼な言い草な気がするが、確かにこの頃、鈴鹿ひろ美は震災の影響もあってか仕事が順調とは言い難かった。
天野アキ「ようやく仕事始めたようだけど未だ本調子じゃねえ。真面目すぎんだよなあ。ママがそばにいて、はっぱかけてやんねえと、またすぐダメになりそうで心配だ。」
春子は尋ねた。
天野春子「いいの?」
天野アキ「何が?」
天野春子「このまま、東京残ってもいいの?」
天野アキ「(立ち上がって)そう、したいんだべ?」
春子は頷いた。
天野アキ「じゃあ、好きにしろ。なんつって。今度はおらが背中を押す番だな。社長、鈴鹿さんのこと、よろしく頼みます。コキ使ってもいいから、元の大女優さ、戻してけろ。」
アキは頭は下げた。会議の結論は決まったようである。照れたのか春子は正宗に
天野春子「なんか言ってよ。」
と言ったのだが
黒川正宗「僕達、より戻せたんだね。」
と感動して泣いてしまった。この男、そういえばアキと種市が密会した時もこんなふうにピントが外れた状態になってしまった。さらにアキは背中を向けていた水口にも頭を下げ
天野アキ「お世話になりました。」
と言ったのだが
甲斐「お疲れ。」
と答えてしまった。そしてマスターは水口にコーヒーを出したのだが、なおも水口は黙ったままであった。余談だが、水口、甲斐、アキがやり取りする部分は脚本からかなり改変されているので可能であれば確認すると面白いかもしれない。
情報漏洩未遂(必殺仕置屋稼業)
必殺仕置屋稼業 第27話「一筆啓上 大奥が見えた」(脚本:國弘威雄、監督:渡邊祐介 (C) 松竹)より
ある夜。中村主水は見回りの最中、おとき(ひろみどり)と竹次郎(伊吹剛)に声をかけた。男と女中の道連れと思ったのである。
中村主水「待ちなさい。こんな夜更けにどちらへ?」
竹次郎は答えた。
竹次郎「決して怪しい者ではございません。このまま行かしてください。」
中村主水は役目柄、こう言った。
中村主水「いやいや。行かさんとは言ってない。失礼ながら、そちらのお女中とお二人の様子から察して何かわけがありそうなんで。」
どこか遠くへ旅に出るような格好をおときと竹次郎はしていたのだ。おときや竹次郎が見逃してくれと懇願したので
中村主水「何か仔細がありそうだが、見て見ぬふりをして退散しますか。」
と見逃した。これで終わればよかったのだが、直後に戸田左近(佐藤京一)が二人を追いかけて主水のすぐそばを通り過ぎ、二人を斬り殺してしまった。竹次郎の叫び声を聞いて主水は現場に急行。戸田左近も中村主水もお互いの顔をしっかり見てしまった。左近は逃走。主水はまだ息のあるおときを助け起こし
中村主水「お女中、しっかりなさい。」
仔細を聞こうとしたのだが、結局、息絶えてしまった。即座に岩田外記(波田久夫)と細川頼母(田畑猛雄)という徒目付がやって来た。これは相手が悪い。
岩田外記「北か南か?」
中村主水「南町奉行所同心」
岩田外記「名は?」
中村主水「中村主水と申します。」
岩田外記「今夜の一件は見なかったことにしろ。何も起こりはしなかった。いいな。」
細川頼母「そうする方がその方の身のためなのだ。」
主水は引き下がらざるを得なかった。
その翌日。主水は村野様に呼び出された。用件は
与力 村野「中村、お前が夕べ出会った事件だが、大目付から内密の達しがあった。」
他言しないようにとの念押しである。主水は村野様から金まで貰ってしまった。
与力 村野「ここだけの話だがなあ、実は夕べの事件というのは大奥に関わる事件だ。」
先ほどのおときは大奥の者でしかも上様のお手つき中臈だったのである。なので口止めに躍起になっていたのである。
さて話がこれで終わると思ったら、大間違い。今までの話は前置きでしかない。色々あって、主水はおはつのいる飯屋へ行った。おはつには南町奉行所同心という身分は内緒にしているのである。
中村主水「おはつちゃん。」
ところがそこに戸田左近がいたから、さあ大変。主水と左近の間に緊張が走る。おはつも、左近と一緒にいたみわ(竹下景子)もただならぬ様子を察してしまった。みわは飯屋を出て逃げてしまい、それでも主水は座ろうとしたのだが
戸田左近「目付から達しが行っているはずだ。南町同心の出る幕じゃない。失せろ。」
そう言い残して左近は立ち去った。
おはつ「おじさん。」
思わずおはつは主水に声をかけたのだが
中村主水「あ。ああ、なんでもない、なんでもない。さ、いつもの奴、頼むぞ。」
なんとかおはつにバレずに済んだようである。
なお余談だが、実は主水は例の一件を裏の仕事として市松達に持ちかけていた。またおはつは次回の最終回には登場しない。
慰留 その2(あまちゃん)
あまちゃん 第23週「おら、みんなに会いでぇ!」第135話(脚本:宮藤官九郎、演出:井上剛 (C) NHK)より
純喫茶『アイドル』でスリージェープロダクション社長の天野春子(小泉今日子)は所属タレント天野アキ(のん)担当マネージャーの水口拓磨(松田龍平)にこう言った。
天野春子「(腕組みして考え事をしながら)やっぱり帰りたいのかしら。」
水口拓磨「(雑誌を読みながら)え?」
天野春子「(色々と思い出しながら)アキ、あの子、岩手に帰りたいのよ。」
迂闊にも水口は春子に指摘されるまでアキの気持ちに気がついていなかった。2011年5月20日。ライター(滝藤賢一)からの取材に応じて話すアキを観ながら水口は考え込んでいた。
天野春子のナレーション「水口君は自分を責めました。なぜ気づいてあげられなかったのか。タレントが何を考え何を欲しているのか、先回りして考えるのがマネージャーの仕事なのに、何をやっているんだ、俺は。」
さらに
天野春子のナレーション「アキちゃんが岩手に帰ると言い出したら、今までの苦労が水の泡。だから、気づかないふりしてたんだ。元々ユイちゃんに誘われて芸能界を目指した彼女に野心はなかった。もう思い残すことはない。潜りたい。大好きな海に潜ってウニをとりたい。その気持ちを誰にも打ち明けられず、カメラの前で健気に笑顔を作っている。」
ライターがアキに無邪気にアキの故郷のことを尋ねた。それを聞き、思わず水口はこう言ってしまった。
水口拓磨「アキちゃん。笑って。」
アキの表情はやはりこわばっていた。その後、水口はアキと一緒に純喫茶『アイドル』へ行ったのだが考えることは
天野春子のナレーション「水口、お前はどうしたいんだ。夏が近づいている。このままアキちゃんを東京砂漠に繋ぎ止めるつもりか、水口。」
甲斐はアキや水口の様子に気がついていたようだ。まあいやでも色々な情報が入ってくるから仕方がないね。その時、テレビでGMTが大船渡でコンサートを開いている様子が流れた。思わずテレビに見入る甲斐、アキ。その様子をじっと見る水口。
甲斐「熱いよねえ。どうせ売名行為だろうけどさあ、日本を元気にしているよね。」
この言葉はアキ、そして水口に影響を与えた。
悩んだ水口は翌朝(だと思う)、無頼鮨の裏で座り込んでいた。ゴミを出しに出た種市(福士蒼汰)に水口はこんなことを言い出した。
水口拓磨「俺は今、岩手県と戦っている。なかなか手強い。」
種市は驚いた。その後、水口は種市とやりとりするのだが、重要な部分は映像では後で出てくるから、とりあえず割愛しよう。実は今回、脚本と映像とでは結構構成などが変わっているのである。
そして水口は太巻(古田新太)に頼み込み、こんな番組の話をアキに持ってきた。
GMT5 × 天野アキ
GMT5デビュー曲「地元に帰ろう」
例によって純喫茶『アイドル』で話を聞いたアキは最終的に
天野アキ「わかった。やるべ。」
と答え、それを聞いた甲斐は
甲斐「やったあ。ごめん。でも、嬉しい。俺、観るよ。録画して何度も観るから。」
なお甲斐の後ろにはGMT5のステッカーが貼られていた。
そして番組が放送された。アキとの再会を喜ぶGMT5のメンバー。アキも再会を喜んだ。歌の途中で水口は感極まってしまった。そして種市とのやりとりを思い出していた。
水口拓磨「アキちゃんを東京に繋ぎ止めるためには種市浩一とのラブが必要なんだ。」
種市浩一「いえ、でも、CMの契約があるから、恋愛御法度だと。」
水口拓磨「しょうがない。解禁だ。俺一人じゃ岩手に勝てねえ。」
水口はそこまで思い詰めていたのである。だが事態は水口の予想以上に深刻だった。
種市浩一「でも天野は岩手に帰りてえんじゃないでしょうか。寝る前にみんなの笑顔、思い浮かべるんだそうです。でも、ユイの笑顔だけ、思い出せないって、言ってました。」
それを聞いた水口は打ちのめされた。
水口拓磨「それ、それ、めちゃめちゃ帰りたがってるよ。」
それを水口は思い出していた。水口の異変に気づいた太巻はこう言った。
荒巻太一「水口、泣くんなら外で泣け。」
太巻が水口の気持ちをどこまで察していたのかはわからない。水口は廊下で泣いた。
さて純喫茶『アイドル』では甲斐がテレビで放送を見ていた。春子と正宗もそこにいた。春子はおそらくアキの気持ちがわかっていたのだろう。正宗は呑気にリズムをとっていた。
甲斐「熱いよねえ、これ。永久保存版だよね。」
ここで正宗はようやく気づいたようだ。
黒川正宗「ねえ、春子さん。僕の考えすぎかもしれないけど、もしかしてアキは岩手に帰りたいんじゃないかなあ。」
それを聞き
甲斐「今頃?」
とその時、アキが入ってきた。生放送ではなかったらしい。そして言った。
天野アキ「ママ、おら、岩手さ帰りてえ。北三陸さ、帰りてえ。」
このまま次回へと続くのだが、水口の慰留は結果的には失敗したと言えるだろう。かえってアキの望郷の念を増幅してしまったことになったのだ、結果的には。
遮断設定 その4(あまちゃん)
あまちゃん 第22週「おらとママの潮騒のメモリー」第132話(脚本:宮藤官九郎、演出:吉田照幸 (C) NHK)と第23週「おら、みんなに会いでぇ!」第133話(脚本:宮藤官九郎、演出:井上剛 (C) NHK)より
足立ユイ(橋本愛)の元には次のチケットが天野アキ(のん)から届いていた。
天野アキ×GMT5 ファーストコンサート
東京EDOシアター A列13席
<日付>2011年3月12日
OPEN:18時40分 START:19時00分
アキもGMTのメンバーもレッスンに明け暮れていた。『潮騒のメモリー 』に合わせてコンサートを行なう事になったのである。まあ天野春子(小泉今日子)は妥協したのだろう。
そしてコンサート前日の3月11日。二つのAが舞台に飾られていた。天野アキからとって太巻(古田新太)が作ったものである。マネージャーの水口拓磨(松田龍平)も感慨深かった。その水口が気になっているのは
水口拓磨「ユイちゃん、明日来るんだって?」
天野アキ「んだ。8時に上野さ着くって。」
それを確認した後、安部ちゃん(片桐はいり)が作ったまめぶを3人で食べながら、水口は言った。
水口拓磨「今夜、天野の親友が上京します。」
河島耕作(マギー)「え? 足立ユイちゃん?」
水口拓磨「はい。よかったら、会っていただけますか。」
荒巻太一「わかった。紹介して。」
ホッとする水口。なお種市(福士蒼汰)はコンサートに合わせて梅頭(ピエール瀧)から休みをもらっていた。
一方、北三陸。リアスにはユイを送るためなのか、大勢の人がやってきていた。小田勉(塩見三省)、磯野心平(皆川猿時)、今野あつし(菅原大吉)、今野弥生(渡辺えり)、菅原保(吹越満)、栗原しおり(安藤玉恵)、吉田正義(荒川良々)、大向大吉(杉本哲太)と言った面々。カウンターには熊谷美寿々(美保純)もいた。そこへ兄の足立ヒロシ(小池徹平)がやってきた。
足立ヒロシ「これ、西新宿のカレー屋のサービス券。あと一枚あればカレー一杯タダで食えるから。」
確かアキにもそれを渡そうとしていたのだが、ユイの答えは
足立ユイ「もう、その店ないよ。」
驚くヒロシに
足立ユイ「ネットで調べたら、とっくに潰れてた。」
その後、リアスを出たユイに父功(平泉成)と母よしえ(八木亜希子)がやってきた。通院して薬をもらいに行くところなのだという。
足立ユイ「なんか、やな感じ、みんな集まっちゃって。」
なお、天野夏(宮本信子)は自宅にいて、長内かつ枝(木野花)と長内六郎(でんでん)が天野家にいた。
小田勉「元気でな、ユイちゃん。」
足立ユイ「やめてよ、帰ってくるんだから。スムーズにバイト入れてるし。」
熊谷美寿々「辛くなったら、いつでも帰ってくるんだよ。」
足立ユイ「楽しくても水曜日に帰ります。」
そしてユイは列車に乗り、大吉も付き添う事にした。この場面からナレーションが天野アキから天野春子に替わるのだ。
天野春子のナレーション「ユイちゃんが本当に帰ってくるつもりだったのか、それとも東京で暮らす覚悟だったのか、それは誰にもわかりません。」
そして
天野春子のナレーション「それは突然やってきました。」
ユイの乗る列車は畑野トンネルの中で急停車。東京も揺れた。北三陸も揺れた。北三陸観光協会の部屋も被害が激しかったが、以後は保が作っていたジオラマを映して状況が説明される。
天野春子のナレーション「3月11日午後2時46分の時点で運行中だった北三陸鉄道リアス線の車両は2台。1台は海の方の高台で止まり、もう1台は畑野トンネルの中。乗客はユイちゃんの他に鈴木のばっぱ、親子連れが一組、部活帰りの中学生が2人。」
ユイは無事だった。
大向大吉「ごめんな、ユイちゃん。仙台さ、何時に着けば良いんだっけ?」
足立ユイ「5時半。」
大吉はガラケーで連絡をつけようとしたが
大向大吉「ダメだ、繋がんねえ。」
大吉もユイもトンネルの中で何が起きたかわからず、呆然としていた。さてアキもガラケーでユイに電話したのだが繋がらなかった。そして列車無線が繋がった。大吉が畑野トンネルにいると連絡すると吉田正義は「こちらから指示を出します。お待ちください。」と言ってきた。その間に余震が絶え間なく続いた。大吉は乗客を安心させようと声をかけたのだが
ジオラマでその様子が映る。15:53のことだった。東京のテレビでも報じられていた。
荒巻太一「天野、お前の実家、海沿いだろう。」
端折ったが、太巻は震源地の宮城県出身の小野寺薫子(優希美青)にも労いの言葉をかけていた。安部小百合が漁協に電話を入れてみるが繋がらない。アキも天野家に電話をかけてみたが繋がらない。小野寺も実家と連絡が取れなかった。
そして16:30。
天野春子のナレーション「救助は来ない。いつまで待っても埒が明かない。ついに大吉さんは決断しました。」
大吉は乗客に告げた。
大向大吉「乗客の皆さん、あの、ちょっと、トンネルの外の状況を見てきます。ご心配なく。安全が確認できてから、皆さん、誘導しますんで、そのまま。あの、すぐ戻って来ますから、お待ちください。」
そして大吉は遠くに見える外からの光を頼りにトンネルの中を外へ向かって歩いて行った。運転士が列車のヘッドライトをつけた。大吉は『ゴーストバスターズ』の主題曲を歌いながら歩いていき、ついに外へ出た。唖然とした。後ろから誰かが歩く音が聞こえてきた。ユイである。それを察した大吉はこう叫んだ。
大向大吉「見るな。ユイちゃん。見てはダメだ。」
大吉は振り返ったのが、その時、ユイはもう外に出ていた。
足立ユイ「も、もう遅い。」
ここから映るのは実際に被災した場所を映したもの。大吉は居た堪れずに頭を下げてしまった。この状態から三陸鉄道北リアス線は復旧したのだが、その様子は
天野春子のナレーション「そこで二人が見た光景は言葉にできるものではありませんでした。」
ユイも大吉も立ちすくんでいた。
天野春子のナレーション「ただ一つ言えるのは、あの時、ブレーキをかけなければ、二人はその光景を見る事すら叶わなかったということ。もう一台の高台に停車した列車は津波の被害を逃れました。それは後に『奇跡の車両』と呼ばれ、復興のシンボルになったと。」
なお東京では小野寺の母親の安否を確認するため、河島、水口、太巻も会社に残って確認していた。そして
河島耕作「小野寺、小野寺、お母さん、無事だったぞ。」
小野寺のファンがブログに書いた事により仙台の中央公民館に母親がいる事がわかったのだ。さらに
種市浩一「天野、いっそん(磯野心平)とつながったぞ。」
と知らせに来た。明るい兆しが見えたが、ユイとは未だ連絡が取れない状態。太巻は決断した。
荒巻太一「みんな、残念だが、明日のイベントは延期する。中止じゃなくて延期だ。な。だから今日は帰れる者は帰って、自宅待機。」
アキはがっくりと崩れ落ちた…のかと思ったら、机の下で
天野アキ「あった。」
アキがしていたミサンガが一本切れていたのだ。入間しおり達も歓声を挙げた。
天野アキ「大丈夫だ。みんな絶対無事だ。」
その頃、アキのガラケーには夏からメールが入っていたのであった。
それにしてもユイが東京へ行こうとすると何かが起きて行けないとはねえ。余談だが、ユイがチケットが届いたとアキと電話で話す場面、脚本では第131話の最後になっている。制作時に構成を変えたのは明らかである。