辞表(ロボット刑事)

ロボット刑事 第5話「二重犯人の謎」と第6話「恐怖の死刑マシン!!」(脚本:上原正三、監督:奥中惇夫、助監督:平山公夫、技闘:風間健 (C) 東映)より

ロボット刑事はKと言うロボットが警視庁特別捜査科学室に配属されて活躍すると言う物語。『ウルトラマンA』を書けなくなってしまった市川森一の代わりをと脚本執筆を託されたのだが自身も迷いが生じて書けなくなってしまった上原正三が以前『柔道一直線』で仕事をした事のあった平山亨プロデューサーから誘われて、これ幸いと参加した作品でもあるし、『柔道一直線』ではトランポリンや助っ人としての参加に留まっていたジャパン・アクション・クラブ(今のジャパン・アクション・エンタープライズ)がアクションを直請けしてやり切った最初の作品でもある。その上原正三初執筆作がこの前後編なのだ。沖縄から上京して受けた「琉球お断り」の差別体験を思いっきり込めたのか、Kと、Kの上司で「足と勘による捜査」を信条として来たのに警視庁特別捜査科学室の室長に任じられてしまったためにKに罵詈雑言を浴びせる芝大造(高品格)の両方に焦点が当てられた話になっている。

さて本題。バドー犯罪組織は宝石泥棒として鳴らした鴨野牛松(上田忠好)と青木(三上剛)と契約を結び、宝石盗難を代行する。そして盗みで得た利益を折半する事が重要な契約事項である。芝は以前、牛松を徹底的に追跡して証拠を掴んで捕まえて刑務所に送り込んだ過去があったのだが、牛松は懲役刑の務めを果たしていた時に右手を切断する事故に遭っていた。そこにバドーが突け込んだのである。

芝はそれまでの経験もあってかKには心を開こうとせず、ロボットが犯行に関わっているというKの意見を否定した。しかし現実は上記の通り、盗みはバドーの殺人セールスマンであるナナツマン (声:高田竜二ではなくて矢田耕司)の犯行であった。何しろ牛松と青木を捕まえて留置場に入れ、部下の新條強(千葉治郎)と自宅で祝杯をあげている最中もナナツマンによってツタンの王冠が盗まれてしまったのだ。ナナツマンをKは倒したのだが、直後にコワシマン (声:塩見竜介ではなくて肝付兼太)が登場して任務を続行。Kはコワシマンには全く歯が立たず、マザーのところへ修理に戻ってしまった。兎に角、犯人を留置場に入れて祝杯をあげている最中に盗難事件が起きてしまってので芝は面目を失ってしまった。

さらに牛松と青木を護送する護送車をコワシマンが襲撃し、新條が重傷を負ってしまった。重傷を負った新條を芝は見舞って気遣ったのだが、Kの言う通り、ロボットも犯行に関わっている事は明白だった。事ここに至って芝は自分のやり方に限界を感じてしまったのである。

その夜。芝は硯に墨を入れ、筆で辞表を書いた。

翌朝。芝大造の上の娘奈美(紅景子)は下の娘由美(加賀由美子)に、朝食ができたので大造を呼んで欲しいと言った。大造の妻は亡くなっていたので芝は娘二人と暮らしていた。奈美は成人していて由美は高校生のようである。由美が芝の部屋へ行ったのだが芝はいなかった。そして発見したのは辞表。

芝由美「お姉さん、大変。」
芝奈美「辞表…」

二人とも驚いた。

芝由美「お父さんは?」
芝奈美「いないの。」

ただ事ではない。そこへ芝が外から帰ってきた。部屋着の着物姿のままである。そして一言

芝大造「朝の空気はうまいなあ。実に気持ちのいいもんだ。」

娘達は驚いた。奈美は辞表を持ったまま立っている。

芝大造「どうした? なんだ、見たのか。」

芝は奈美から辞表を取り返した。そして座った芝に奈美は尋ねた。

芝奈美「本当に辞めるつもりなの?」
芝大造「ああ。」
芝奈美「辞められるの? お父さん、一生刑事で終わるのではなかったの?」
芝大造「わしもよく考えてのこと。どうやらわしの時代は終わったように思うんだ。科学の前にはどうにもならん。」

心底落胆する芝を見て、奈美は何も言えなくなった。とそこへやって来たのは

ロボット刑事K「そんなことありませんよう。」

出迎える奈美にKは言った。

ロボット刑事K「芝刑事は立派な刑事です。辞めたらいけませんよ。」

それを聞き

芝大造「馬鹿野郎。卑しくも刑事たる者が事件をほっぽらかしてどこへいってたんだ。」

実はナナツマンを倒してコワシマンに敗れてからKは芝とは会っていなかった。だから芝はKの活動を全く知らなかった。だからああ言ったのである。これが何故か芝の活力源になったようである、皮肉にも。

芝大造「だからお前は鉄屑野郎だって言うんだ。」

思わず奈美がとりなした。

ロボット刑事K「すみません。コワシマンとの戦いで故障箇所が生じたもんですから、修理に。それより芝刑事、牛松が保護を申し出て来ました。」
芝大造「何、錠無しの松が?」
ロボット刑事K「今、本庁にいます。すぐに来てください。」
芝大造「よし。(奈美に)おい、何ぼやぼやしている。服、服。」

芝は辞表はそのままにしながらも着替えてKと一緒に本庁へ。なお牛松達は宝石を売り払ったり、王冠の宝石を外して壊す事などが納得できず、バドーから契約違反とみなされて命を狙われる身となっていた。最終的に牛松達の身柄は芝が守り切り、コワシマンは弱点を見抜いたKと新條の活躍で倒す事ができた。牛松はツタンの王冠の隠し場所を芝に話した。確かにその場所にあったのだが

鴨野牛松「芝の旦那に敗けたんですよ。このワシを身を投げ出して守ってくださった。悪党のワシをね。」

かくして科学だけではなく、「足と勘による捜査」を続けた経験が今後も活かせると芝は確認でき、

芝大造「わしはロボットに下げる頭は持たんぞ。」

と照れ臭さもあって強がりながらも懐に入れたままにしていた辞表を芝はこっそり破るのであった。