キックオフ(燃えろアタック)

燃えろアタック 第57話「ふたりで作った愛のスパイク」(脚本:上原正三、監督:奥中惇夫、助監督:三ツ村鐵治 (C) 東映)より

小杉百合子(河内桃子)から小鹿ジュン(荒木由美子)が伝授された技「ひぐま落とし」を夏川ゆか(中原歩)と西方美樹(池田信子)に伝授したことにより、ダブルひぐま落としをできるメンバーが増えてジュンのエースの座が危うくなってしまった。そこで部長の速水大造(小瀬格)は、かつてジュンの母小野民(河内桃子、実は小杉百合子と同一人物)が高校時代に考案しながら完成させることのできなかった「幻のスパイク」のノートをジュンに渡した。以後、ジュンは「幻のスパイク」開発を試行していた。ここまでが前回までの大まかなあらすじである。

そして春の選抜大会初戦。白富士学園バレー部の先発メンバーが発表された。なんとエースのはずの小鹿ジュン(荒木由美子)がいないのである。引退したばかりの3年生も驚き、コーチに訊き直した方がいいと言ったのだが、マネージャーの八田のり子(中島千里)はコーチがそれで良いと言ったのだという。驚いたジュンがコーチの速水大介(南條豊)に詰め寄るとコーチが観ていたのは「幻のスパイク」のノートであった。

速水大介「俺は幻のスパイクを完成させたいと思う。どうだ、小鹿、二人でやってみないか?」

コーチの真意はそこにあったのだ。

速水大介「その代わり、それ相当の覚悟が要るぞ。」
小鹿ジュン「私、どんな事でも。」
速水大介「じゃあ、俺に任せろ。いいな。」

と言うわけで幻のスパイクを完成させる練習が始まった。まず大介はジュンを徹底的に走り込ませて基礎体力をつけさせた。なお幻のスパイクの回転は、ひぐま落しが縦方向なら、横回転という感じである。台風のようにクルクル回るのである。それ相応の体力が必要になるのだ。研究を重ねる大介に父の大造は声をかけた。大介はこう言った。

速水大介「なんとしても完成させますよ。ひぐま落としを超える技を。」

大造はその意気込みを買いつつも忠告した。

速水大造「期待している。だけど焦るなよ。父さんと同じ轍を踏ませたくないからな。」

大造は小野民を指導していたのだが、民はアキレス腱を切って選手生命が断たれた過去がったのだ。それは当然、大介も知っている。

納谷悟朗のナレーション「ジュンは大介のプランにしたがって毎日のように鍛えた。」

ロケ地は東京都北区付近の新河岸川か荒川の堤防だろう。そして基礎体力ができたとみた大介はおしゃれなレストランにジュンを呼び出した。「ナポレオン」と言う店のようである。

小鹿ジュン「びっくりしました。御めかしして来いだなんて。」

大介はまずジュンを座らせた。さて大介がジュンを呼び出した真意は

速水大介「今日は二人だけの壮行会だ。」
小鹿ジュン「壮行会?」
速水大介「うん。第一段階のトレーニングは終わった。いよいよ、組み立てに入る。」
小鹿ジュン「組み立て?」
速水大介「うん。組み立てるんだよ、幻のスパイクを。親父はひぐま落としを組み立てた。俺は幻のスパイクを組み立てる。そして親父を超えてみせる。お前だってそうだ。お母さんの完成できなかったスパイクを完成させるんだ。超えるんだよ。」
小鹿ジュン「母さんを超える?」
速水大介「そうだよ。超えるんだ。超えようじゃないか。超えてみせようじゃないか。」

その言葉にジュンは頷いた。

速水大介「明朝5時、体育館で待っている。」

さらにジュンは頷いた。そして料理が来た。

速水大介「さあ、うんと食ってスタミナつけろ。」

それはステーキだった。

速水大介「貧乏教師の給料じゃ身分不相応だがな。」

こうして「幻のスパイク」の組み立てに向けてジュンと大介は始動したのだが、それが苦難の道であることをジュンも大介も、視聴者も知る由はなかった。ちなみに試作技は次回に披露されるのだが本当に未完成の代物で、真の意味で完成するのは第65話になってからだったのである。