ハニートラップ(必殺仕置屋稼業)

必殺仕置屋稼業 第25話「一筆啓上 不倫が見えた」(脚本:中村勝行、監督:大熊邦也 (C) 松竹)より

江戸の小石川の新堀河岸が崩れてしまった。土嚢を積んで応急措置を施したのだが、また崩れるかもしれない。相模屋勘右ヱ門(永田光男)は工事に乗り出そうとしたのだが三州屋惣兵ヱ(谷口完)の手代の弥助(五味龍太郎)が妨害。人足は管轄の役人である中村主水に掛け合い、主水はもう一度、担当者に掛け合ってみると約束した。工事の担当は堅物で有名な岡崎左門(小笠原良知)。妻の志乃(市原悦子)は内職で苦労していた。

岡崎は村野様に掛け合った。村野様は

与力 村野「普請元に見積を出させて入れ札で工事を請け負わせてはどうだ。」

と指示。工事費用の節減も考えての手だった。

さて南町奉行所で説明会が開かれ、悪徳工事が信条の三州屋はこんな作戦を発案した。

三州屋惣兵ヱ「なあに、まともに入れ札をする気ははなからねえぜ。」
弥助「というと?」
三州屋惣兵ヱ「年番役の岡崎って同心を抱き込む。奴の裁量で入れ札はどうにでもなる。」
弥助「へい。」

さてどうやって抱き込むのか。まず賄賂を弥助が持っていったのだが、岡崎は毅然として断った。その報告を聞き、三州屋はさらにこんな作戦を発案した。

三州屋惣兵ヱ「だが弥助、亭主がダメなら、女房って手があるぜ。」
弥助「え?」
三州屋惣兵ヱ「どうせ貧乏同心の女房だ。おいそれと着物の一枚でも買やしねえだろう。」
弥助「なるほど。」
三州屋惣兵ヱ「何も着物に限った事じゃねえが、女って奴はなあ、必ず何か一つは欲がある。そいつを探すんだ。」

そして志乃が出来心で清吉(寺田農)と言う飾り職人と密通している事を嗅ぎつけた弥助は清吉を通じて志乃に指示。岡崎が眠りこけている隙に志乃は見積の金額を調べ上げ、メモ帳に書き上げた。

そして入れ札の日。小石川新堀河岸の工事は一両違いで三洲屋に決まってしまった。奉行所内では同心連中が不審に思い、「見かけによらず岡崎さんもやるもんだ。」と無責任な事を言う連中が出る始末。主水も不思議に思っていた。その主水に相模屋がこう詰め寄っていた。

相模屋勘右ヱ門「中村様、わずか一両の差というのが、どうしても腑に落ちません。事前に手前どもの見積とかが漏れていたと思います。」

主水は岡崎の人柄をよく知っていたので、その意見を一蹴したが

相模屋勘右ヱ門「いえいえ。三洲屋ならやりかねません。中村様。この工事は三州屋には任せられません。平気で手抜き工事をやる連中ですから。」

主水は御定法によって決まった事だと反論したのだが

相模屋勘右ヱ門「この度の入れ札にからくりがあったのだとしたら、差し戻しはできるはず。」
中村主水「で、あたしにどうしろと言うんだ?」
相模屋勘右ヱ門「(懐から金を出し)これは決して賂ではございません。お奉行所黙許の礼金です。三州屋を調べていただきたい。」

と言うわけで、今回の仕置の流れはおわかりであろう。

さて岡崎は見積額を書いた書類と、その脇にあったメモ帳らしきものを見比べてあることに気がついた。志乃がメモを残していたのである。

岡崎左門「志乃。」
志乃「はい。」
岡崎左門「(メモ書きを手に持ち)これは何だ? この数字はお前の筆跡だ。言え。何のためにこんな事をしてたんだ。」

志乃は無言。これで志乃の犯行を確信した岡崎は志乃をビンタ。誰に頼まれたのかを問い詰めた。

そして翌朝。南町奉行所で岡崎は自決。その死体を主水が発見。その後、岡崎の自宅へ行ってみると離縁状が置かれて志乃はいなかった。なんと志乃は清吉の長屋へ転がり込んでいた。

その後の調査で清吉と三洲屋の繋がりが判明し、仕置屋は仕置を遂行することにした。まず印玄が清吉を仕置。屋根の上に登った印玄が網を投げて清吉を捕まえ、引き上げた。

清吉「助けて、おろして。」

と連呼する清吉。そして屋根の上まで引っ張り上げたところで印玄が網を持って高速(?)回転すると

清吉「目が回る。」

そして印玄が網を話すと清吉は落ちて死亡した。ジャイアントスイングの変形版と言ったところであろう。

その頃、主水は清吉の長屋へ行き、清吉の帰りを待って夕食の支度をしているという志乃にこう言い放って出て行った。

中村主水「奥さん、清吉は帰ってきませんぜ。」

市松は手抜き工事を指示する弥助を仕置。主水は三洲屋を仕置した。

事後、清吉を岡場所で探し回る志乃を見て、主水は複雑な気持ちになるのであった。

なお余談だが、中村勝行は後の『ザ・ハングマン』最終回でこの手口(妻を籠絡して情報を得る)を再利用して脚本を書いている。