慰留 その2(あまちゃん)
あまちゃん 第23週「おら、みんなに会いでぇ!」第135話(脚本:宮藤官九郎、演出:井上剛 (C) NHK)より
純喫茶『アイドル』でスリージェープロダクション社長の天野春子(小泉今日子)は所属タレント天野アキ(のん)担当マネージャーの水口拓磨(松田龍平)にこう言った。
天野春子「(腕組みして考え事をしながら)やっぱり帰りたいのかしら。」
水口拓磨「(雑誌を読みながら)え?」
天野春子「(色々と思い出しながら)アキ、あの子、岩手に帰りたいのよ。」
迂闊にも水口は春子に指摘されるまでアキの気持ちに気がついていなかった。2011年5月20日。ライター(滝藤賢一)からの取材に応じて話すアキを観ながら水口は考え込んでいた。
天野春子のナレーション「水口君は自分を責めました。なぜ気づいてあげられなかったのか。タレントが何を考え何を欲しているのか、先回りして考えるのがマネージャーの仕事なのに、何をやっているんだ、俺は。」
さらに
天野春子のナレーション「アキちゃんが岩手に帰ると言い出したら、今までの苦労が水の泡。だから、気づかないふりしてたんだ。元々ユイちゃんに誘われて芸能界を目指した彼女に野心はなかった。もう思い残すことはない。潜りたい。大好きな海に潜ってウニをとりたい。その気持ちを誰にも打ち明けられず、カメラの前で健気に笑顔を作っている。」
ライターがアキに無邪気にアキの故郷のことを尋ねた。それを聞き、思わず水口はこう言ってしまった。
水口拓磨「アキちゃん。笑って。」
アキの表情はやはりこわばっていた。その後、水口はアキと一緒に純喫茶『アイドル』へ行ったのだが考えることは
天野春子のナレーション「水口、お前はどうしたいんだ。夏が近づいている。このままアキちゃんを東京砂漠に繋ぎ止めるつもりか、水口。」
甲斐はアキや水口の様子に気がついていたようだ。まあいやでも色々な情報が入ってくるから仕方がないね。その時、テレビでGMTが大船渡でコンサートを開いている様子が流れた。思わずテレビに見入る甲斐、アキ。その様子をじっと見る水口。
甲斐「熱いよねえ。どうせ売名行為だろうけどさあ、日本を元気にしているよね。」
この言葉はアキ、そして水口に影響を与えた。
悩んだ水口は翌朝(だと思う)、無頼鮨の裏で座り込んでいた。ゴミを出しに出た種市(福士蒼汰)に水口はこんなことを言い出した。
水口拓磨「俺は今、岩手県と戦っている。なかなか手強い。」
種市は驚いた。その後、水口は種市とやりとりするのだが、重要な部分は映像では後で出てくるから、とりあえず割愛しよう。実は今回、脚本と映像とでは結構構成などが変わっているのである。
そして水口は太巻(古田新太)に頼み込み、こんな番組の話をアキに持ってきた。
GMT5 × 天野アキ
GMT5デビュー曲「地元に帰ろう」
例によって純喫茶『アイドル』で話を聞いたアキは最終的に
天野アキ「わかった。やるべ。」
と答え、それを聞いた甲斐は
甲斐「やったあ。ごめん。でも、嬉しい。俺、観るよ。録画して何度も観るから。」
なお甲斐の後ろにはGMT5のステッカーが貼られていた。
そして番組が放送された。アキとの再会を喜ぶGMT5のメンバー。アキも再会を喜んだ。歌の途中で水口は感極まってしまった。そして種市とのやりとりを思い出していた。
水口拓磨「アキちゃんを東京に繋ぎ止めるためには種市浩一とのラブが必要なんだ。」
種市浩一「いえ、でも、CMの契約があるから、恋愛御法度だと。」
水口拓磨「しょうがない。解禁だ。俺一人じゃ岩手に勝てねえ。」
水口はそこまで思い詰めていたのである。だが事態は水口の予想以上に深刻だった。
種市浩一「でも天野は岩手に帰りてえんじゃないでしょうか。寝る前にみんなの笑顔、思い浮かべるんだそうです。でも、ユイの笑顔だけ、思い出せないって、言ってました。」
それを聞いた水口は打ちのめされた。
水口拓磨「それ、それ、めちゃめちゃ帰りたがってるよ。」
それを水口は思い出していた。水口の異変に気づいた太巻はこう言った。
荒巻太一「水口、泣くんなら外で泣け。」
太巻が水口の気持ちをどこまで察していたのかはわからない。水口は廊下で泣いた。
さて純喫茶『アイドル』では甲斐がテレビで放送を見ていた。春子と正宗もそこにいた。春子はおそらくアキの気持ちがわかっていたのだろう。正宗は呑気にリズムをとっていた。
甲斐「熱いよねえ、これ。永久保存版だよね。」
ここで正宗はようやく気づいたようだ。
黒川正宗「ねえ、春子さん。僕の考えすぎかもしれないけど、もしかしてアキは岩手に帰りたいんじゃないかなあ。」
それを聞き
甲斐「今頃?」
とその時、アキが入ってきた。生放送ではなかったらしい。そして言った。
天野アキ「ママ、おら、岩手さ帰りてえ。北三陸さ、帰りてえ。」
このまま次回へと続くのだが、水口の慰留は結果的には失敗したと言えるだろう。かえってアキの望郷の念を増幅してしまったことになったのだ、結果的には。