情報開示(あまちゃん)

あまちゃん 第22週「おらとママの潮騒のメモリー」第131話(脚本:宮藤官九郎、演出:吉田照幸 (C) NHK)より

2010年の暮れ、天野アキ(のん)は映画『潮騒のメモリー』の主題歌『潮騒のメモリー』のレコーディングに呼ばれた。その場にいたのは太巻(古田新太)、河島耕作(マギー)。スリージェープロダクションからは水口拓磨(松田龍平)の他に社長の天野春子(小泉今日子)が来ていた。Take 1が録られたが、その時、春子は歌うアキの姿が若い頃の春子(有村架純)に見えていた。太巻はレコーディングの最中なのにガラケーをいじってばかり。そして1時間後。レコーディングの結果は微妙な感じで、河島の話も上の空という感じである。この態度に春子の怒りが爆発した。

天野春子「ちょっと、何よ、さっきから。しょっちゅう時計見たりメールしたり、どうでも良い? 早く帰りたいの? 次なんか入ってるの? ふざけないでよ。」

太巻は無言。その理由は後でわかるが先へ進もう。

水口拓磨「座りましょう。」

水口はとりなしたが春子の怒りは止まらない。

天野春子「初主演映画の主題歌なのよ。一生に一度の事なのよ。アキにとって人生を左右する大事な曲です。真面目にやって。」

すると太巻は真顔で、なおかつ冷静にこう言った。

荒巻太一「それじゃあ、もう一ぺん歌ってみますか。」

アキは返事したが、太巻の真意は違っていた。

荒巻太一「アキちゃんじゃなくて社長。」

この突飛な提案に春子は驚いた。河島も呆然としていた。

荒巻太一「この歌、歌えるでしょ。」
天野春子「冗談じゃない。なんであたしが?」
荒巻太一「冗談じゃないですよ、本気ですよ。歌唱指導は我々もできますけど、この歌のお手本示せるのはあなただけでしょう。」

真相を知らない河島は「流石に、それは。」と言ったのだが

天野アキ「おらも聞きてえ。」

思わず春子はアキの方を向き、水口は「アキちゃん…」と呟いた。

天野アキ「元々、おらの原点はママが歌った『潮騒のメモリー』だ。ママの歌聞けば、何か掴めるかもしれねえべ。」

この言葉が春子の背中を押した。太巻はどうぞという感じで手をスタジオの方へ向かせ、水口も春子の方を観た。春子は決断した。なお、後でわかるが河島は置いてけ堀である。

天野春子「観て。一回だけだからね。失敗してもやり直さないから。」

アキは頷いた。そして春子は歌い始めた。そしてそれからしばらく経った時、鈴鹿ひろ美がエレベータを降りた。

島耕作「似てるなあ。鈴鹿ひろ美そっくり。」

それを聞き

水口拓磨「え!? 河島さん、ご存知なかったんすか?」
島耕作「ん? 何が?」

と同時に鈴鹿ひろ美が調整室に入ってきた。

天野アキ「ジェジェ。」

水口は太巻のところに近づいたが

荒巻太一「良いんだ、水口。俺が呼んだ。」

それを聞き、驚く水口。鈴鹿ひろ美はサングラスを外して歌う春子を観た。太巻は鈴鹿ひろ美に打ち明けた。

荒巻太一「ずっと打ち明けられないまま、時が経ってしまいました。もう、とっくに御存知だと思うのですが、歌、歌を差し替えてしまいました。」

鈴鹿ひろ美は複雑な表情。ちょうどその頃、春子は鈴鹿ひろ美がいる事に気がついたのだろう。歌うのをやめてしまった。呆然とする春子。

荒巻太一「止めてください。」

伴奏は止められた。しばらく見つめ合う鈴鹿ひろ美と天野春子。そして鈴鹿ひろ美の表情が険しいものになり、カバンを置いた後、座ってしまった。春子はヘッドホンを外した。

鈴鹿ひろ美「どうして、今更?」

アキは鈴鹿ひろ美を見ることしかできなかった。

荒巻太一「わかりません。騙し通す事もできましたし、鈴鹿さんが騙され続ける事を覚悟する事も知っています。だから、墓場まで持って行こうと思っていました。この子(天野アキ)に会うまで。」

アキは驚いた。

天野アキ「ジェ。おらが?」

天野春子はレコーディングルームから出ようとしていた。

荒巻太一「そうだよ。(水口に)お前が天野をスカウトして俺に会わせるからこういう事になったんだ。」
水口拓磨「(小声で)すいません。」
荒巻太一「もうちょっと声はれ。」
水口拓磨「すいません。てか、鈴鹿さんは知ってたんですか?」

春子は調整室の中には入れなかった。鈴鹿ひろ美は無言。

天野アキ「知ってましたよね。」

思い出すのは春子と鈴木ひろ美が初めて顔を合わせた場面。

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天野アキ「いつからですか?」

ついに鈴鹿ひろ美が口を開いた。

鈴鹿ひろ美「ん? いつ? いつかしら。そう、ずーっと前のような気もするし、今のような気もするし。」

鈴鹿ひろ美は黙ってしまい、誰も口を挟むものはいなかった。春子も呆然としていた。そしてついに春子が調整室に入ってきた。

鈴鹿ひろ美「あ、(春子を指差し)私だ。」

立ったままの春子に鈴鹿ひろ美が少しずつ歩み寄り、こう言った。

鈴鹿ひろ美「ごめんなさいね。あたしのせいで表舞台に出られなかったんですよね。(頭を下げてお辞儀して)ごめんなさい。」

しばらく呆然としていた春子は我に返ってこう言った。

天野春子「やめてください。そんなんじゃないですから。」

続けて太巻がこう言った。

荒巻太一「俺が君に声をかけなければ。」

思い出すのはタクシーでのやり取り。

荒巻太一「申し訳ない、春ちゃん。」

太巻も頭を下げた。春子は影武者だった頃を思い出していた。太巻もそうだっただろう。春子はアキに声をかけた。

天野春子「歌いなさい、アキ。ママ、歌ったよ。今度はあんたの番でしょう。早く。」

そしてアキは歌い始めた。今まで録音したものとは違って迷いがなくなったような感じだった。全員座った。鈴鹿ひろ美は春子の左隣に座っていた。アキの歌を聴きながら春子は言った。

天野春子「感謝しなくちゃ。」
鈴鹿ひろ美「え?」
天野春子「アキのおかげで鈴鹿さんに会えました。」

鈴鹿ひろ美はこう返した。

鈴鹿ひろ美「良い娘さんね。」

天野春子は笑みを浮かべた。鈴鹿ひろ美の影武者を天野春子が務めていたという情報が開示され、関係者一同の胸のつかえが落ちたのであった。河島耕作がどう思ったのかは知らないが。