出張(必殺仕置屋稼業)

必殺仕置屋稼業 第20話「一筆啓上 手練が見えた」(脚本:中村勝行、監督:渡邊祐介 (C) 松竹)より

脚本を担当した中村勝行さんがハングマンシリーズでも度々連発した難関突破物の一つで中村さんは人情物よりも娯楽編の方が得意だというのがよくわかる話でもあるのだが、とりあえず小ネタから書いていこう。そういえば、今回、お初は登場しないのねえ。

さて南町奉行所では上州藤岡宿の一件で話が盛り上がっていた。ヤクザの石神辰五郎(北村英三)が暴れ回っているので勘定奉行が非公式で協力を要請してきたというのだ。いずれ誰かが現地の情勢調査に飛ばされるかもしれないとの噂で持ちきりの中、中村主水が出勤。すると皆、話をやめてしまった。

その後、中村主水は上司の与力 村野様(宗方勝巳)に呼び出された。

与力 村野「すまんが、明日にでも上州藤岡へたってくれ。いやあ、わずか十日ばかりだ。」
中村主水「藤岡へ?」
与力 村野「うん。」

念の為、主水は確認した。

中村主水「村野様、例の越後屋の火付の一件、まだ調べがついておりませんので。」

その心は体よく断りたいという事だったが

与力 村野「いやあ、お前しかおらんのだよ、適任者は。」

なんと。外堀は埋められていた。なおも主水は抗弁した。

中村主水「と申しましても十日の出張となりますと奉行所からの手当は一両二分でございますなあ。聞くところによりますと藤岡の物価が最近とみに上がっておりますと聞き及びますので、一両二分では大幅に…」

すると

与力 村野「中村。決まりは決まりだ。」

内堀も埋まったようだが、村野様の言葉には続きがあった。

与力 村野「仕方がない。特別手当を二両出そう。」

これは効いた。

中村主水「は。二両でございますか。」

村野様は頷いた。なお、これは最後の小ネタの伏線だ。

中村主水「は。では行かせていただきます。仕事の内容は?」
与力 村野「博徒取締の一件、勘定奉行から協力の要請があった。ちょこっと行って、お前が見てきてくれればいい。大した仕事ではない。」

なので主水が適任者なのであろう。与力 村野様はこっちへ来いと合図をした。そして言ったのは

与力 村野「これは大きな声では言えぬがあそこの大野屋という旅籠を訪ねろ。お金をちょいと握らせれば(右手の小指を立てて)あれも。」

にやける中村主水。自分も右手の小指を立てて

中村主水「あれですか。」

村野様は頷いた。

中村主水「は、では、直ちに出発させていただきます。」

なお、この地で仕置をするとはこの時点では知らぬ主水であった。