請求書(必殺仕置屋稼業)

必殺仕置屋稼業 第24話「一筆啓上 血縁が見えた」(脚本:猪又憲吾、監督:田中徳三 (C) 松竹)より

おはつの店から帰った主水は蒸かし芋を買ったのであろう。いつもの部屋で食べているところへ村野様がやって来た。

与力 村野「中村。」

流石の主水も蒸かし芋を食べるのをやめてしまい始めたが

与力 村野「中村、なんだ、その懐へ入れたの?」
中村主水「いえ。なんでもございません。」
与力 村野「いやいや。」

左手には何かの書類を持ち、じっと主水を睨む村野様。その迫力に気圧されて、主水は懐にしまった蒸かし芋を出さざるを得なかった。

与力 村野「やっぱりお主か。(手に持つ書類を読み上げて)請求書一つ 金三十五文なり。蒸かし芋四つ、村野様。いもまつ。わしの名前で芋を買うか。」
中村主水「いえ、芋屋で私の名前でつけがききませんのでちょいと村野様のお名前を拝借しまして。申し訳ございません。必ず月末に精算させていただきますんで。」

いくらためたんだ、主水君。村野様は呆れ返ってしまった。だが溜まっているものはこれだけでなかった。

与力 村野「いいから、ちょっと来い。」

主水を奥へと呼び出し、溜まった請求書を色々読み上げる村野様。その内訳は

与力 村野「未精算、中村主水、九月二十五日、秩父出向の時、な。未決算、中村主水向島料亭ひさごにおける同心部屋の寄合、確かこの時お前は幹事であったなあ。借用書、一つ、金二両なり。妻りつ並びに母両名の病気のために返済…」

ここで主水は観念し、謝った。

中村主水「村野様。申し訳ございません。このところ、物入りが多うございまして、必ず全部月末に精算させていただきますんで、よろしくお願いいたします。」

さてここからのやりとりは

与力 村野「いや、しかしだな、中村。」
中村主水「村野様、あたくし、ど忘れしておりましたが、先だって赤提灯ご一緒させていただきました時に一朱お立て替えさせていただきましたが、あの分はどのように?」

出た。問題すり替え理論。こういう誤魔化しを使う輩は多いよね。

与力 村野「いやいや。この店はお前の顔が利くから、どうぞ私にお任せくださいとお主、言ったではないか、え?」
中村主水「と申しましても私は下戸でございますから、あの時頂いたのだ沢庵が二切れでございます。村野様ともあろうお方が部下に金を払わせてそのままというのは。」

だが即座に毅然と村野様は明快に答えた。

与力 村野「中村。あれはあれ。芋は芋だ。」

それでも主水は粘った。

中村主水「わかりました。全部、三月待っていただきますか?」
与力 村野「三月。よし。」

渋々了承した村野様であった。