なりすまし(イナズマン)

イナズマン 第17話「謎の対決!ふたりの渡五郎!!」(脚本:上原正三、監督:塚田正煕、擬斗:高橋一俊 (C) 東映東映エージェンシー)より

題名からわかる通り、渡五郎の偽者が登場する話である。伊良湖岬でのタイアップが行なわれた作品であるが、別にそこが舞台でなくても成り立つ話だ。しかも後のイナズマンFで辣腕を振るう上原正三初執筆作で演出も塚田正煕監督なので傑作になる事間違いなし。とは言うものの、子供の頃、再放送を観ていた私がそこまで理解できるわけはなかったが、面白かったのは間違いない。

さてシャシンバンバラ(声:細井雅男)は渡五郎を呼び出した。五郎の母親同様にファントム軍団に協力するよう要請するシャシンバンバラだったが、五郎はその要請を拒否し、襲いかかった。だが

シャシンバンバラ「タイムシャッター!」

シャシンバンバラの左腕はストロボのようになっているらしい。五郎の動きが停止してしまった。

シャシンバンバラ「五郎よ、お前の時間は一枚の写真のように定着した。時は止まったのだ。」

原理不明。それは兎に角、シャシンバンバラはファントム軍団の兵士の作業で五郎そっくりの姿になった。やはり原理不明。それは兎に角、帝王バンバも御満悦。V計画の実行をシャシンバンバラに命じた。

まずライジンゴーに乗った「渡五郎」がトンネルを出たところで現金輸送車を襲撃。ロケ地は伊良湖岬ではなくて今の中央大学の校内を突っ切ったところである。

当然、五郎は疑われ、捕まるのだが、囚人護送車をシャシンバンバラが襲撃。何人かの警官の動きを「タイムシャッター」で封じておいて

シャシンバンバラ「我々の目的は渡五郎の救出にある。他の人間は虫ケラ同然、殺せ。」

と宣言したからタチが悪い。五郎は囚人を守るため、戸を閉めてサナギマンに変転。応戦したがシャシンバンバラはパトカーが駆け付けたのを察知して引き上げた。そのまま五郎は逃亡したが、それが警察の心証を悪くしてしまった。五郎は新人類帝国の狙いに気がついた。

渡五郎の声「新人類帝国の狙いは俺を凶悪犯に仕立て人間社会から追放する事にあるんだ。」

この話、個人的には上原正三が上京してからの実体験に基づくものだと思うのだが、気のせいか?

シャシンバンバラ「もう一押しだ。」

次に「渡五郎」の乗るライジンゴーはキヨシ(大塚崇)を轢き逃げ。

そして今回の肝は渡五郎と同行していた丸目豪作(北村晃一)、大木カツミ(山田芳一)、富川カオル(府川房代)の動向かもしれない。なんと三人とも五郎を信じず、事情も聞かずに糾弾する始末。否定する五郎と共に、キヨシ(大塚崇)達との面通し(ロケ地は東映生田スタジオの真ん前のような気がするが…)が行なわれ、「証拠が揃って」しまい

丸目豪作「これだけ証拠が揃えば、もう逃げられんばい。自首、自首しろ、な。」

という始末。うーむ。後の荒井誠とは大違いである。まあ荒井誠の方が豪作よりも年長なので、それもあるのかもしれないが。それは兎に角、五郎はこう言った。

渡五郎「カラクリが解けたぞ。もう一人の俺がいるんだ。」

ところが誰も味方にはならなかった。五郎は山の中、逃亡を続けた。山狩をする消防団。キヨシも山の中を歩いている。その時、緩い崖のようになっているところでキヨシは五郎に遭遇。落ちてしまった。

渡五郎「びっくりさせてごめんよ。」

五郎はキヨシの右手から血が出ている事に気がついた。そしてジーンズを脱いで自分のシャツの左腕の袖を破り、まいて手当てしてやった。何かを感じるキヨシ。カツミが五郎を探して呼ぶ声が聞こえたので

渡五郎「お兄さんはね、これからキヨシくんを痛い目に遭わせた奴らを捕まえにいかなければならないんだ。ここで捕まるわけにはいかないんだ。わかってくれるね。」

五郎はキヨシの頭を撫でてから去った。手当てした右手を見るキヨシ。

だが次の場面では「渡五郎」がキヨシを捕まえ、群衆を目の前に喉元にナイフを当てていた。

丸目豪作「やめろ。気でも狂ったのつかんしゃ!」

うーむ。荒井誠とは(以下省略)。だが背後から渡五郎が「渡五郎」に襲いかかった。キヨシは解放された。渡五郎と「渡五郎」の戦闘が続く。巧みなカメラワークも使い、ワンカットだけ合成を使ってうまく処理した映像が続いた後

丸目豪作「本物の五郎はどっちじゃ?」
警官「どっちが本物か区別がつかんなあ。」

うーむ、後の荒井誠なら(以下省略)。だが、本物を見抜いた人物が一人だけいた。

キヨシ「この兄ちゃんはいい人だ。」

なんとキヨシは一眼で本物の渡五郎がどちらかを見抜いたのである。

「渡五郎」「なにを言うんだ、坊や。こいつは偽者なんだ。」

だが

キヨシ「違う。優しい兄ちゃんだ。」
「渡五郎」「どうしてそんな事が言えるんだ?」

キヨシは黙って渡五郎が手当てした手を挙げた。そして渡五郎は「渡五郎」のジーンズの上着の左腕側を脱がせた後、自分のジーンズの上着を脱いだ。渡五郎の左腕のシャツに袖はなかったが、「渡五郎」のシャツには袖があった。

大木カツミ「キヨシくんの傷を手当てしてくれたのは本物なんだね。」
キヨシ「優しい兄ちゃんだあ。」

だからすぐわかったのである、キヨシには。と言うわけでシャシンバンバラと渡五郎(→サナギマン→イナズマン)の戦いとなり、新人類帝国の作戦は失敗したのであった。後の仮面ライダーBLACK RXのあの話と違って簡潔に書けたねえ。まあ脚本家が(以下省略)

なお今回、大木サトコは登場していないが理由は知らない。それは兎に角、イナズマンも原作漫画の通りに少年同盟がもう少し活躍していれば印象が変わったのかもしれない。どうしても「イナズマン + 雑魚大勢」と言う印象を受けてしまうから。丸目豪作はイナズマンF 第19話「イナズマン デスパー軍団に入隊す!!」(脚本:上原正三、監督:前川洋之、擬斗:高橋一俊 (C) 東映東映エージェンシー)での荒井誠(この話では渡五郎はデスパー軍団に操られている)と違って五郎を糾弾する側に回ってしまうのが、その証左だ。荒井誠は渡五郎を信じて力を貸すので頼りになるのだが、豪作は五郎の足を引っ張ってばかり。だから、今回のようになってしまうのだろう。

まあそこまで子供の頃は考えなかったけれども、イナズマンFの方が子供心に面白かったと感じたのは確かで、イナズマン上原正三が参加してからの話が印象に残っているのも確かである。そして制作者が子供達に媚びて作っていなかったのも確かで、そこが上原正三市川森一が去った後の第2期ウルトラシリーズとの大きな違いなのだろうなあと個人的には思う。上から目線の作風は好きにはなれない。