だだ漏れ(あまちゃん)

あまちゃん 第13週「おら、奈落に落ちる」第78話(脚本:宮藤官九郎、演出:井上剛 (C) NHK)より

GMTのメンバーと水口(松田龍平)は無頼鮨に来て「お任せ」で寿司を注文してしまった。そして皆、気がついていなかったが、衝立を隔てた隣には常連の女性(薬師丸ひろ子)が座って皆の話が聞こえてしまっていた。さてその状態で

小野寺薫子「なんぼ持ってる?」
天野アキ「ギリギリ二千円。」
小野寺薫子「水口さんに借りるか?」
天野アキ「持ってねえと思う。その証拠にさっきから見てると寿司一貫も食ってねえし。焼酎飲んでるように見えるが水を水で割ってる。最終的に逃げるつもりだ。」

という会話の最中、衝立の向こうに座っている女性は財布を出していた。これと前後するが、衝立の女性は無頼鮨の職人から、衝立の向こうにいるのは東京EDOシアターから来ている人達だと聞いていた。アキの脳裏に夏の言葉が響く。

天野夏「もし足りなかったら、そんときは謝り倒して皿洗いばなんぼでもすんだな。」

と思っている最中、入間しおりがアキに話を振った。

入間しおり「アキは? 聞いてねえの?」
喜屋武エレン「好きな女優誰ねえって。」

なんという展開だろうか。

天野アキ「ああ、鈴鹿ひろみ。」

なんという天啓であろうか。衝立の向こうの女性はタクシーが着いたというので帰ろうとしていたのだが、その言葉を聞いて足が止まった。だがGMTのメンバーの反応はといえば

入間しおり「いや、お芝居は上手いと思うよ。鼻につく。」

ここから「新人泣かせ」だの

入間しおり「お城に住んでそうじゃない。」

とか言いたい放題言う一同。衝立の向こうの女性が座り直して聞いていることに気づいていない。だがアキはこう言った。

天野アキ「オラもよく知らねえけどテレビで昔の映画観て…」

とその時、アキは衝立の向こうの女性が立ち去ろうとしているのに気づいた。そして気がついた。

天野アキ「ジェジェジェジェ、ジェジェジェジェ、ジェー。」

なんと鈴鹿ひろみ本人が帰ろうとしていたのである。つまり、衝立の向こうに鈴鹿ひろみ本人がいたのだ。更に

梅頭「支払、済んでるから。」

驚く水口。

寿司職人「さっきまでお隣にいらした方が払っていきました。」

口をあんぐりするアキ。

天野アキのナレーション「ユイちゃん、これは事件です。大事件です。憧れの女優鈴鹿ひろみが衝立一枚隔てた隣の席にいたなんて。」

慌ててアキは外へ出て、追いかけた。

天野アキ「あの、鈴鹿さん。」
鈴鹿ひろみ「はい、はい。」

鈴鹿ひろみは上機嫌で振り返った。水口はアキに追いついたが、鈴鹿ひろみもいるのに気がつき挨拶した。

鈴鹿ひろみ「あなた確か太巻のところの…えーっと、水口さん。」

一応、名前が出てきたらしい。奢ってもらった礼を言う水口とアキに

鈴鹿ひろみ「いやあだ、もう、お構いなく。」

他のメンバーも追いつき、頭を下げた。

鈴鹿ひろみ「大袈裟。今日は気分が良くて楽しかったから。」

だが来たのはGMTのメンバーだけではなかった。なんと無頼鮨の客全員が来たのである。怪訝に思ったひろみは領収書を見た。その金額を見て

鈴鹿ひろみ「やだ。」
寿司職人「あのう、皆様の分も全部払ってとおっしゃったので。」

ひろみの勘違いか梅頭の勘違いかは定かではないが

鈴鹿ひろみ「お構いなく。ほっとけないだけなの。あたしも皆さん(もちろんGMTのこと)の年頃から、この世界でやってますから。鼻につくとか言われながらね。」

平謝りする入間しおりや他のメンバー。GMTのメンバーの言葉はだだ漏れしていたのである。壁に耳あり障子に目あり。

水口琢磨「すいません。世間知らずなんですよ。地方出身者ばかり集めたアイドルグループで、よろしければご挨拶させていただいても。」
鈴鹿ひろみ「そうね。ここでお会いしたのも何かのご縁ですから。お名前だけでも伺っておこうかしら。」

ここぞとばかりにアキが口を開こうとしたのだが

入間しおり「はい。海はないけど夢はある…」
鈴鹿ひろみ「結構です。人目もあるし。」

そりゃそうだよなあ。

鈴鹿ひろみ「さて、お城に帰りましょう。」

だがアキは粘った。タクシーに乗り込んだひろみにアキは自分の名前を告げ、更にこう言うのであった。

天野アキ「あなたさ、憧れて東京さ来ました。(握手しながら)『潮騒のメモリー』最高です。最高です。」

無邪気にそういうアキを見て思わず

鈴鹿ひろみ「ありがとう。いつか一緒にお芝居しましょうね。」

大喜びするアキはタクシーを見送りながら

天野アキ「かっけえ。」

と言うのであった。

それにしても迂闊なことは言えないもんだねえ。そしてこの出会いが天野アキだけではなく、水口、天野春子などの運命を変える事になるのである。