偽造(新・必殺仕置人)

新・必殺仕置人 第22話「奸計無用」(脚本:松原佳成、監督:松野宏軌 (C) 松竹)より

必殺シリーズ異聞 27人の回想録』という本で、この話の脚本を担当した松原佳成がこう述べている。

rittorsha.jp

-『仕留人』以降で思い出深いシリーズはありますか?

松原 もっとも傾注したのは『新必殺仕置人』(77年)です。仲川氏に「次はこんな内容」と次々にメモ的なシノプシスを渡しました。なんの制約も難儀もなく、シナリオの執筆は早かったと記憶しています。

この話もノリに乗っている感じが伝わるのである。

さて本編。巳代松は竹林で竹を何本も切っていたのだが、そこは墓が近くにあり、若い女(赤木美絵)が生きたまま棺桶に入れられて埋められている事に気づき、掘り出し、放っても置けないのでそのまま自宅に持ち帰った。そして女の名前がおきみであることを聞き出し、更に

おきみ「(うちは)伊豆の土肥です。」

と言うことがわかっただけ。更に

おきみ「お願いです。あたしを、あたしを土肥へ連れてってください。おとっつぁんに会いたいんです。」

と頼まれてしまった。棺桶の中に入れられていたのでおきみは白装束である。

翌朝。巳代松の家へ正八がやってきた。正八は白装束の女、すなわち、おきみがいる事に驚き、更に巳代松に金を無心された。おきみの着物を買うのに必要だと巳代松が言うと

正八「今日、寅の日だよ。」

巳代松は思い切って商売道具を質入れする事にし、正八にそれを頼んだ。正八はそれを引き受け、質屋の親爺(日高久)とやりとりし、巳代松の名前で金や着物を手に入れた。

そして寅の会。挙句は

吉蔵「御披露いたします。
伊豆の山々
月あわく
金山支配
笹川伊織
虎漫筆」

実はこれ、「月あわく」までが「湯の町エレジー」(作詞:野村俊夫、作曲:古賀政男、歌手:近江俊郎)と同じなのである。頼み料は二十両だったが最終的に

念仏の鉄「十二両だ。」

で落札した。目的地はなんと土肥。温泉も出るところである。殺す相手は笹川伊織(西山嘉孝)と言う金山奉行であった。なんと言う都合の良い展開なのだろうか。なお今回、おていは登場しない。絵草紙屋の地下室にいるのは念仏の鉄、巳代松、中村主水、そして正八の四人である。

念仏の鉄「久しぶりに旅だ。」

渋る巳代松。

念仏の鉄「なんだ、嫌なら行かなくっていいんだよ。俺一人で行くんだから。」

この男はこういうノリなのだ。

念仏の鉄「おい、おめえ、八丁堀もよう。え?」
中村主水「いや、俺は都合がいいんだ。二日経ちゃ月番が変わって南が暇になる。場所は?」

一番金にうるさい主水は聞いた。すると答えは

念仏の鉄「行く先は伊豆の土肥。」

巳代松の態度が変わった。

念仏の鉄「相手は伊豆の金山総支配笹川伊織。」

と言うわけで金を分け、中村主水は自宅に戻って箪笥の奥に受け取った金を隠したのだが、外へ出る時に、買い物から戻ってきたせんとりつと遭遇してしまった。なお、主水が知るわけはないのだが、せんとりつは着物屋で反物を買っていた。番頭が集金に来ると言うので困り果てるせんとりつだったが、主水が出て行った後、何かあるとピンと来たようだ。

中村せん「あの婿殿のこと、月々の小遣いをしっかり貯め込んで一両か二両はどこかに隠してあるはず。」

場面変わって今度は正八。巳代松の頼みで質屋へ行って質入れしたものを受け出しに行ったのだが、正八が出て行った後、質屋の親爺は気がついた。

質屋の親爺「あれ?」

質屋の親爺が出てきたところを運よく中村主水が通りかかった。

質屋の親爺「お役人様、贋金です。」

慌てて主水は質屋の親爺と一緒に中に入り、金を確かめる事にした。

質屋の親爺「ここをよくみてください。」

とまあ主水に贋金の小判を渡して確認させた。主水は質屋の親爺に渡された小判が贋金であることに気がついた。そこで主水は隙を突いて贋金を自分の手元にあった小判とすり替え、質屋の親爺に返して誤魔化した。

中村主水「俺には贋金には見えねえがなあ。刻印なんかずれちゃいねえや。親爺、これは本物だぞ。」

そんな筈はないという質屋の親爺だったが、主水から渡された小判を観ると本物だった。

中村主水「人騒がせもていげいにしろ。」

質屋を出た主水は正八のところに直行。正八を呼び止め確認した。

中村主水「正八、おめえ、さっき質屋で使った銭はあれは仕置料でもらった銭か?」
正八「そうだよ。松ぁんの分だよ。」
中村主水「あれは贋金だぜ。」

正八は驚いた。

中村主水「運よく取り返せたからいいものの、銭から足がついたら出所を言えねえだけにおめえの素っ首がとぶところだったぞ。」

というわけで

正八「みんなに知らせとくよ。」

主水は慌てて自宅に戻った。そして箪笥の奥を調べたのだが、なんと銭がない! さあ、困った。

中村主水「ない!」

なんとその贋金は

呉服屋 番頭(重久剛)「どうもありがとうございます。確かに一両頂戴しました。どうも失礼致します。」

反物の支払いにあてられてしまったのだ。さあ大変。開き直るせんとりつには

中村主水「もうすぐ私は非番になりますから、体が空くんで、そうしたらあんたと母上をお連れして、まあ伊豆か箱根へ旅をしようと思って貯めてた金なんですよ。」

と咄嗟に誤魔化し、呉服屋の番頭からは正八(本当はおていを使いたかったのだろうが、諸事情によりいない)を使ってスリ取らせ、そこへ主水も間に入って本物とすり替えた後

中村主水「贋金全部集めさせろ。鉄に虎のところに持ってかせるんだ。」

と正八に命じた。

そしてその夜。鉄が虎の後をつけていた。虎の後ろには死神がついている。当然、死神は気づき、持っていた縄(銛がついていない方)を投げて鉄の動きを封じた。

虎「やめろ。」

死神は構えていた銛をおろしたが

死神「元締ノ後ヲツケタ奴ハ死ヌ。」
念仏の鉄「どうしても会わなければならない用事ができたんだよ。受け取った仕置料は贋金だぞ。」
虎「何。贋金?」
念仏の鉄「依頼人は誰なんだい。」
死神「依頼人ヲ明カサナイノガ、コノ仕事ノ掟ダ。」
念仏の鉄「そんなことはわかっているよ。しかし。」

というわけで

虎「よし、わかった。心配のないように確かめよう。」

虎は鉄から贋金を全て受け取り、頼み人である油問屋の松崎屋徳兵ヱ(天津敏)のところへ持って行った。

松崎屋徳兵ヱ「どうぞ、これをお納めください。」

と言って別の金をそっくりそのまま出した。これが贋金だと信じられないという松崎屋。色々と言ったが

虎「言い訳はもういいでしょう。」

とりあえず虎は引き上げ、死神と一緒に鉄に受け取った金を渡した。

虎「この一件、松崎屋を信じて引き受けたが、もう一度、調べ直してほしい。偽りの依頼は許されない。その判断は任せる。」
念仏の鉄「へえ。」

こうして本物の金が渡されて、鉄達はまた分け合った。最終的に笹川伊織(西山嘉孝)は何も悪い事はしておらず、松崎屋と金山の役人の黒井伝蔵(上野山功一)が組んで金を横流ししたり贋金を作っていた事が判明。巳代松はおきみを彼女の父の為吉(柳川清)のところへ帰した後、仕置が遂行されたのであった。