代金(新・必殺仕置人)

新・必殺仕置人 第32話「阿呆無用」(脚本:村尾昭、監督:高坂光幸 (C) 松竹)より

おていが財布をスリとった直後

おみつ(小坂知子)「ちょうだい。」

なんと分け前を要求してきた。

おてい「なんだい、その手は。」
おみつ「分け前頂戴。」
おてい「ほう、あんた、あたしを強請ろうってえのかい?」

おていが突き飛ばすとおみつの後ろにある大きな桶から正八が顔を出した。

おてい「この泥棒市界隈は私のシマなんだよ。え。こんなマネ、済むと思ってるのかい。」

おていがおみつをビンタするとおみつがビンタし返した。これが何度も繰り返された後、

正八「女同士、何やってるのよー。」
おてい「正ちゃん、この小娘、なんとかしてくれよー。」

と言うわけで正八がおみつを押さえ込んでいる間におていは遁走した。

今度は正八と歩きながらおみつがこう言った。

おみつ「ねえあんた、あたし買わない?」

何を言い出すのだろうか。都合の良いことに正八の前には念仏の鉄が座っていた。そこで正八は鉄におみつを押し付けた。鉄はニヤニヤしながら色々と「品定め」した後、

念仏の鉄「よし、買おうじゃねえか。」
正八「買うんだったら、俺が買う。」
念仏の鉄「てめえは引っ込んでろ。」

正八は首が後ろ前についた状態にされてしまった。よく生きてるよねえ。ところが

念仏の鉄「おい、姐ちゃん、いくらだ?」
おみつ「十両。」

さあ困った。そこまでの持ち合わせはない。

正八「ちょいとお金の相談? 貸してやってもいいよ。」
念仏の鉄「馬鹿野郎。てめえから銭借りるならなあ、俺は水虫借りる方が絶対マシだ。ちょっと待ってろ。ここで待ってろ。ね。」

鉄は金策のため、一旦立ち去った。

でどこへ行ったかというと、鉄は巳代松のところ。ところが盗み取ろうとして、屋根の上に上がり、鉤上になった木の枝に縄を結び、銭の入った鍋を盗み出そうとしたのである。当然ばれて

巳代松「降りてこいよ。」

鉄は降りてきた。

念仏の鉄「まっちゃん、暑いのに精が出るねえ。」
巳代松「ガキみてえにこんなもん作りやがって。おい、座れ。座れよ。」

鉄はしゃがんだ。その様子を見に野次馬が群がった。

巳代松「俺はな、おめえにいっぺん言いたかったんだけどよう」
念仏の鉄「うん。」
巳代松「おめえ、すぐな、銭金で女を買おうとするだろ」
念仏の鉄「うん。」
巳代松「それが俺はきれえなんだよ。女だってよ、気持ちってもんがあるじゃねえか。そこんとこなあ…」

ここで鉄は野次馬が群がっていることに気がつき追い払おうとしたのだが

巳代松「ああ、いいよ、いいよ。女だってな、気持ちってものがあらあな。」
念仏の鉄「うん。」
巳代松「そこんとこ、もっと大事にしてやんなきゃな、女だって可哀想じゃないかあ。」

野次馬も「そうだよ」と言い出した。

念仏の鉄「しかし、お前、いい事言うなあ。頭良いんだね、まっちゃんね。」

そして隙を突いて

念仏の鉄「これ、半分でいいからよう」

ととろうとしたのだが

巳代松「馬鹿野郎。ダメだよ。もう行け。商売の邪魔だ。行け。」

と追い返された。頭に来た鉄は野次馬の一人をぶん殴ってボコボコにした。

さて、これで終わりになるわけではなく、今度は中村主水が標的になった。主水が袖の下をもらった直後

おみつ「頂戴、分け前」

と強請り始めた。そこへ正八が駆けつけ、耳打ち。主水は正八におみつの相手を任せて遁走した。そして正八は

正八「仕置料!」

とおみつが金を強請った理由を知るのであった。仕置の代金十両を得るのが目的だったのである。