初仕事(あまちゃん)

あまちゃん 第15週「おらの仁義なき戦い」第87,88話(脚本:宮藤官九郎、演出:西村武五郎 (C) NHK)より

天野アキのナレーション「そして、ついに女優デビューの日がやってきました。」

現場入りする鈴鹿ひろみ(薬師丸ひろ子)と天野アキ(のん)はバッチリ衣装を身につけていた。

AD「ドライの前にご紹介します。隣人C役の天野アキさんでーす。」

紹介されて挨拶しまくるアキに

鈴鹿ひろみ「よろしく。今日は共演者だからね。対等に行きましょう。」

これを聞き、ドライに入ろうとする鈴鹿ひろみにアキは駆け寄り、こんなことを聞いた。

天野アキ「ドライってなんだ?」

なんとタメ口である。しかも質問の内容も「それ重要なのか?」と言いたくなるもの。

天野アキ「ドライなんて教わってねえべ。何? 今すぐ教えろ。何?」

あのねえ。と思う間も無く

水口琢磨「お芝居の段取りを決めるんだよ。」

なんと水口が来ていたのだ。驚くアキだったが、来た理由は

水口琢磨「マネージャーが現場行くのは当たり前だろ。」

さてここからアキのあまちゃんぶり、思えばタイトルはそこにもかけていたんだねえ、が展開されることになる。その後、アキはこんなことを口走って頭を下げた。

天野アキ「鈴鹿さん、今日まで色々とありがとうございました。」

当然、怪訝な顔をする鈴鹿さん。

鈴鹿ひろみ「引退?」

そう思ってしまうのも無理はない口ぶりだったが

天野アキ「はい。そのつもりで当たって砕けます。」

まあ意気込みはわかったのだが、突拍子のない言葉には違いない。

天野アキのナレーション「前略 ユイちゃん、ママ、夏バッパ、あと大吉さんとかそこら辺の皆さん。ついに私、天野アキ、女優デビューでがす。」

そして次の回に進んだ。収録が始まった。撮影するのはこの場面。

島田の部屋の呼び鈴を何度も鳴らすが
島田はでてこない
かわりに隣の部屋のドアが開く
隣人C「島田さん、先週引っ越しましたよ」
寿「え!?」
隣人Cドアを閉める
立ち尽くす寿

鈴鹿ひろみが廊下を歩き、島田さんの部屋の前に着いたのだが、呼び鈴を押す前に隣人Cのドアが開き

天野アキ「島田さん、先週、引っ越しました。」

ちょっと待て。出てくるのが早すぎるだろう。当然NGになった。AD小池はキューを出すのでと言ったのが

天野アキ「キューってなんだべ?」
AD小池「きっかけです。」

あのねえ。あなた、現場に付き人としていたんじゃないの、と言いたくなるのだが、とりあえず Take 2 になった…と思ったら

天野アキ「きっかけってなんだべ?」

思わず水口も口あんぐりした後、恥ずかしそうに顔を下に向けた。AD小池はそれでも説明した。

天野アキ「合図かあ。合図なら合図って言ってけろ。」

うーむ。先が思いやられるなあ。そして Take 2…になるかと思ったら、またアキが何か聞いた。うーむ。そしてオープニングが流れた後、Take 2となった、と思うのだが、今度は鈴鹿ひろみが何度呼び鈴を鳴らしてもアキが出てこない。何度もAD小池は合図をしているはずなのだが

天野アキ「ごめんなさい。全然見えませんでした。」

あらあ。困ったねえ。とりあえずAD小池は「御自分の間で」「5秒」と指示するより手がなかった。この後、アメ女の国民投票の結果発表の場面になった。

そして Take 3(?)。今度はちゃんと出てきたのだが

天野アキ「鈴鹿さん、先週引っ越しましたよ。」

正にドツボにハマった状態で当然NG。アキは笑うより他はなかった。水口はガラケー国民投票の結果もチェックしていた。

鈴鹿ひろみ「やーだ。私、引っ越してないわよ。」

と笑っていたのだが、心中はどうだったかは定かではない。また国民投票の場前が挿入された。

そして何度目かの撮り直し。

天野アキ「島田さん、先週引っ越しましたよ。」

ところが言い終わった安心感からかアキはニヤけてしまった。

監督「笑っちゃダメだよ!」

当然NG。大丈夫か?

天野アキ「あ、そうか。すいません。」

水口は針の筵だっただろう。鈴鹿ひろみの表情はこわばっていた。とこの時

水口琢磨「劇場戻るわ。問題発生。ごめんなさい。」

問題の内容は次回で語られるのだが正に問題であった。思わずアキは国民投票の結果を尋ねたが、まだ名前が上がっていないことを水口は正直に告げた。アキは落胆しつつも

天野アキ「大丈夫ですよね。ミサンガ、切れたし。」

と明るく振る舞った。そして国民投票と収録は続く。そして

天野アキ「島田さん、先週引っ越しましたよ。」
鈴鹿ひろみ「あ、そうですか。」

やっとOKが出た。思わずアキはAD小池と手を叩いた。

AD小池「お疲れ様でーす。」

本当にそう思ったのだろう。

天野アキ「ご迷惑をおかけしました。」

鈴鹿ひろみはこう言った。

鈴鹿ひろみ「いいの、いいの、別に。明日もよろしくね。」

もちろん付き人として来て欲しいと言ったのだが、その後、恐ろしい言葉が待っていた。

鈴鹿ひろみ「ただ、あなた、女優は無理ね。」

ガーン!

鈴鹿ひろみ「話し相手としては面白いし、いてもらうと助かる。でも、女優はダメ。向いてない。」

死刑宣告のようなものである。呆然と立ち尽くすしかないアキであった。