否定(あまちゃん)

あまちゃん 第16週「おらのママに歴史あり 2」第91話(脚本:宮藤官九郎、演出:梶原登城 (C) NHK)より

自信をなくした天野アキ(のん)は自分を気遣って帰省もせずに合宿所に残ってくれた喜屋武エレン(蔵下穂波)を連れて北三陸へと戻ってきた。地元の人は皆歓迎してくれたが、やはり足立ユイ(橋本愛)だけは天野アキを素直に受け入れようとはしなかった。そんなある日、ユイは海女カフェにアキを呼び出した。一体、何のつもりなのだろうか? アキは海女カフェで潮騒のメモリーズとして歌ったことを思い出したが、ユイもその話から入った。

天野アキ「楽しかったよねえ。」
足立ユイ「全然。」

さてここからユイはアキ、というより自分の否定ばかりを述べ出した。曰く、全然楽しくなかった、だとか、東京へ行かない、だとか

足立ユイ「諦めたとかじゃなくて冷めたという感じなの。だってダサいじゃん。」

生脚出すとか言いたい放題言いまくるユイ。こんなのに夢中になっていた自分が恥ずかしいというか汚点だよとまで言い切った。この言葉を聞き

天野アキ「そりゃねえべ。」

怒りが爆発。今度はアキがユイを否定し出した。

天野アキ「ずっと待ってたんだぞ。ユイちゃんのこと、必ず行くって言うから待ってたんだぞ。」

二人ともアキが旅立った日のことを思い出していた。

天野アキ「その言葉だけをずっと信じてたんだぞ。それなのになんだよ。冷めたって、やめたって。おら、何のために東京で、奈落で、風呂もねえ合宿所で…」

ユイは「知らねえし」と嘯いたがアキの怒りは止まらない。

天野アキ「ダサい? そんなの知ってるよ。やる前からダサいと思ってた。ユイちゃんがアイドルなるって言い出した時から。」

これは効いた。

天野アキ「ダサいから聞こえねえフリしたんだ。そうしたらユイちゃん、もう一回言ったんだぞ。」

袖が浜の駅で「アイドルになりたーい」と叫ぶユイの姿を二人とも思い出していた。そしてアキのトドメの一撃(大門豊談)は

天野アキ「楽しいからに決まってるべ。ダサいけど楽しいから。ユイちゃんと一緒だと楽しいからやってたんだべ。ダサいぐらいなんだよ、我慢しろよ。」

もはやユイには返す言葉がなかった。さらにアキはこう言った。

天野アキ「東京でオラ、いやと言うほど思い知らされた。みんなが待っていたのはオラじゃなくてユイちゃんだって。」

アキはそれで傷ついたことを述べ

天野アキ「逆だったら良かったのにって。」

アキではなくてユイが東京へ行けば良かったのにという言葉を聞いてユイは涙を流していた。そう。やはり本音はアキに言い放ったこととは逆なのである。だがプライドが物凄く高いユイは、だから東京へ行けないのだろうが、こう叫んだ。

足立ユイ「そんなこと軽々しく言わないでよー。」

そしてあの時、アキから託された東京行の切符をビリビリに破いて捨てて

足立ユイ「母さんと私で病気の父さん置いて行けるわけないでしょう!」

これが言い訳に過ぎないことは今までの足立ヒロシ(小池徹平)の言動からも明らかなのだが、それはとりあえず置いておこう。

足立ユイ「アキちゃんみたいに気楽な身分じゃないの。そっとしてほしいの、こっちだよ。」

我慢しきれなくなったのか

天野アキ「お母さん、帰ってこないよ。」

ついに真実を言ってしまった。驚くユイ。さらに

天野アキ「だけどオラだって、必死に踏ん張って這いあがろうとしてるんだ。気楽な身分だなんて言われたくねえ。」
足立ユイ「40位の繰り上げ当選のくせして自慢しないで。」
天野アキ「自慢じゃねえ。それがオラの現実だ。ダサいなんてそんな、自分が一番わかってる。どんだけ不幸か知らねえが、ここで過ごした思い出まで否定されたら、オラはやってらんねえ。」

アキは出て行った。ユイもアキの言う事はよくわかっているのだが、言わずにはいられなかったのだろう。ユイは立ちすくんだままだった。

そしてユイは北三陸駅の待合室にやってきた。ベンチに座り込んだままのユイを見つけて声をかける春子。ユイは

足立ユイ「アキちゃんを傷つけちゃった…」

と自己否定もとい自己嫌悪に陥って春子の胸にすがって泣くのであった。