エージェント(あまちゃん)

あまちゃん 第16週「おらのママに歴史あり 2」第94,95,96話(脚本:宮藤官九郎、演出:梶原登城 (C) NHK)より

さて上京する天野アキ(のん)は春子(小泉今日子)から渡された手紙を読んでいた。荒巻太一(古田新太)と春子の間に何かあったので自分が冷遇されているのではないかとアキが言ったので、事実関係を包み隠さず話すのが目的だった。なお、後にわかるが、その手紙に書かれたのはあくまでも春子が見聞きした事である。春子が事実だと考えていたことは全て書かれていた。

上京した春子(有村架純)は紆余曲折の末、甲斐(松尾スズキ)が営む純喫茶『アイドル』でアルバイトをしていた。そこに荒巻太一(古田新太)も常連として顔を出していた。その頃行なっていたのは今の水口同様、スカウトだったりマネージャーだったりしていた。

そんなある日、荒巻が血相変えてやってきた。春子を借りたいと言うのだ。そしてタクシーを呼んだのだが運転していたのは黒川正宗(森岡龍)である。頼んだのは鈴鹿ひろみの代わりに歌って欲しいと言うこと。鈴鹿ひろみは天野春子より一、二歳上だったがハートフルが社運をかけて売り出そうとしている清純派アイドルだった。ところが彼女は致命的に歌唱力がなく、彼女が歌った『潮騒のメモリー』をカーステレオで聞いた春子の感想は

天野春子「こう言う歌かと思いました。」
荒巻太一「そうだねえ。逆に誰もこんな風に歌えないもんねえ。」

と言うわけで荒巻はテープを取り替えさせた。荒巻自身が歌い直したものである。全ての事情を話した上で

荒巻太一「歌ってくれないかなあ、鈴鹿ひろみの代わりに。」

と荒巻は頼んだ。最終的に春子はその件を承諾した。

天野春子(小泉今日子)のナレーション「ママはその日、マイクの前に立ちました。鈴鹿ひろみの影武者として。」

驚くアキ。今までアキが聞いていたレコードの歌声は春子のものだったのである。そしてこの件は鈴鹿ひろみには伏せられていた。そういえば以前、鈴鹿ひろみ(薬師丸ひろ子)はカラオケで『潮騒のメモリー』を入れても歌える気がしないと言っていた。まあこの件は後の伏線でもあるのだが、それが回収されるのはかなり先の話。先を急ごう。

スタジオに着いた時

黒川正宗「お客さん、0が1個多いんですけれども。」
荒巻太一「知っとるは、おんどりゃ、このあほんだら。」 

これは口止め料も兼ねており、車の中の話は誰にも言うなと荒巻は乱暴な関西弁で恫喝した。この気迫に当時21歳の正宗は気おされてしまった。こうしてレコーディングが行なわれたというわけだ。なお、声は小泉今日子であるので有村架純のエージェントでもあるのだ。最初は緊張した春子だったが最終的にはうまく行った。

この後、大江戸シアターに着いたアキと荒巻、河島との間でやり取りがあったが割愛しよう。アキは手紙の続きを読んだ。

さて映画もヒットし、レコードの売り上げも好調だった。当初、鈴鹿ひろみは歌番組(元ネタは明らかに『ザ・ベストテン』)には出演しなかった。というか、会社がさせなかった。ちなみに鈴鹿ひろみのファンの甲斐はこの事実を知らなかった。

どうも鈴鹿ひろみ自身は納得していなかったようだ。ついに荒巻太一は天野春子(有村架純)にこう告げた。

荒巻太一鈴鹿ひろみがテレビに出たいと言い出した。」

しかも口パクは嫌だというのだ。そして鈴鹿ひろみ出演の日がやってきた。

甲斐「可愛いなあ。」

店に春子の姿はなかったが

甲斐「お腹痛いから休むって。」

と思っていた。だが真実は違う。春子は鈴鹿ひろみよりも一足先にテレビ局入りしていた。そして別の部屋に控えていた。さてミキサー室では荒巻が緊張の面持ちで控えていた。歌が始まった。鈴鹿ひろみの歌声が流れたのだが

荒巻太一「こっちじゃない、そっち。」

歌声が春子(小泉今日子)のものになって一安心。鈴鹿ひろみが帰ったのを確認してから春子(有村架純)が帰るのである。

天野春子(小泉今日子)のナレーション「一回歌うと三万円もらえました。もちろん、その中には口止め料も含まれている。」

そして荒巻はこうも言っていた。

荒巻太一「君の経歴に傷つくような事は絶対にしない。」

さて鈴鹿ひろみはその後も曲を出していた。だが春子(有村架純)は気がついてしまった。このまま鈴鹿ひろみの影武者のままでは永遠にデビューできない。荒巻は「いずれ君をデビューさせる」と繰り返し言っていたが、春子の我慢もついに限界を超えてしまった。

天野春子「私、アイドルってもうきついですか? だったら、そう言ってくださいよ。」

そして春子は荒巻にデモテープを社長に聞かせろと要求していた。荒巻は聴かせたようだがその感想は

荒巻太一「似てるって。」
天野春子「誰に?」
荒巻太一鈴鹿ひろみ。鈴鹿ひろみの声に似てるって。」

そりゃそうだ。その答えに春子はプッツン。2年が経って平成元年(1989年)になり、春子はまだデビューできなかった。春子には後でわかったそうだが、荒巻は春子を真剣に売り込もうと動いていたのだが、努力の甲斐もなく

天野春子「田舎に帰ります。お世話になりました。」

荒巻は慰留した。せめて携帯電話がもう少しコンパクト(この当時はショルダーホンと言う肩掛け式)になるまで頑張って欲しいと慰留した。だが

天野春子「だったらお願いがあります。」
荒巻太一「何?」
天野春子「『潮騒のメモリー』を歌わせてください。」

このお願いが聞き入れられる筈もなく、交渉は決裂。あえてこう言ったのは、そこまで追い込まれていることを荒巻に春子は知ってもらいたかったのである。プライドはないのかという荒巻に

天野春子「プライドなんてあるに決まってるじゃない。なかったらとっくに諦めてます。プライドあるから、このままじゃ終われないから、今日まであんたの言う事聞いてきたんです。バカにしないでよ。」

これが荒巻と春子が会った最後の日となった、その時点での。そして荷物をまとめて東京を出ようとタクシーを止めたのだが、その時の運転手はなんと黒川正宗(森岡龍)だったと言うわけなのだ。

ここで第16週はおしまいなのだが次週は波乱必至のようである。