依頼(必殺仕置人)
必殺仕置人 第2話 「牢屋でのこす血のねがい」(脚本:國弘威雄と貞永方久、監督:貞永方久 (C) 松竹)より
我ながら狡いタイトルだが、これでほとんどの必殺シリーズの話を取り上げる事が可能になってしまった。だが興味と時間の関係で取り上げるのは一部かな。
さて本題。おしん(原良子)は磔と決まった。中村主水を詰る念仏の鉄と棺桶の錠に主水が話す。磔と決まった帰りに主水はおしんと2人きりで話すことに成功したのだ。
中村主水「勘弁してくれ。俺はあの時、おめえをどうしても助ける事ができなかった。汚ねえ人間だと思うだろう。だがな。」
おしん「良いんです。何もかも終わってしまったんです。でも、あたしは死にたくない。死んで私の恨みを、父や母や姉の恨みを晴らすことはできないからです。」
中村主水「おしん、おめえがお白州で言った事、あれは本当なんだな。おめえのおとっつぁんの和泉屋文蔵は豆の買い占めをやろうという山城屋達の申し出に反対した。そのために抜け荷の罪を着せられた。抜け荷をやってやがったのは山城屋達だった。そうなんだな?」
おしんは頷いた。
中村主水「それが元で文蔵は首を括り闕所となったお前達一家は離散した。お前のおっかさんや姉さんは次々に離脱し、この世に生き残ったのは京へ養女に行ってたおしん、おめえ一人だけだ。おめえは顔を知られてねえ事を幸いに元大番頭だった要助(北原将光)と組み、松前屋、近江屋、越後屋を誘い込んで次々に殺したんだ。」
だが
おしん「違います。お白州で何度も申し上げた通り、越後屋だけはあたくしではありません。確かにあたくしは松前屋篠助、近江屋市次郎(入江慎也)は殺しました。でも越後屋だけは、あたくしが越後屋を誘い出す前に誰かに斬られて死んでいたんです、本当です。越後屋は誰か別の人に殺されたんです。」
さてここからは市中引き回しをされるおしんが映る。その様子を念仏の鉄、棺桶の錠、鉄砲玉のおきん、そして、おひろめの半次も観ていた。
おしん「でも、たとえ別の人に殺されたにしろ、越後屋はわたくしの思い通りに死にました。残ったのは山城屋だけ。父を殺し、母を殺し、姉を殺した張本人の山城屋だけは生き残った。だから、あたくしはこのままでは死んでも死にきれないのです。」
ここでおしんは念仏の鉄、棺桶の錠、鉄砲玉のおきん、そして、おひろめの半次に目の前を通るのだ。うまい演出だ。おしんの顔がアップになった。
おしん「お願いです。お願いでございます。」
そして念仏の鉄達がアップになった。鉄はしっかり観ていた。鉄の右後ろにいたおきんもしっかり観た。おきんの右隣にいた半次は沈痛な面持ちだ。鉄の左には棺桶の錠がいる。
おしん「あたしは地獄へ落ちたっていい。あたしの願いを叶えてください。」
そしておしんは刑場に着き、磔にされた。槍が刺されようとしている。
立ち去ろうとする主水。おひろめの半次、鉄砲玉のおきん、棺桶の錠、そして念仏の鉄は、おしんが死ぬのを観た。十字架の下に置かれた桜の二十札のそばの石に血がついた。
そして一同は棺桶の錠の家に集まった。例の札を観ながら鉄が言う。
念仏の鉄「俺は少しは女を信じてもいいという気になってきたぜ。」
相変わらずにやけていうのがこの男らしい。
主水は懐から三十両はあろうかと思われる小判を出した。
中村主水「引きまわされる前にな、これをおめえに渡してくれとよ。(鉄が受け取った後)それはおしんのうちの桜の木の下に埋めてあったんだ。後はよろしく頼むとそう言ってたぞ。」
鉄の顔は真面目なものになった。
中村主水「おめえにはその意味がよくわかるな。」
暫く皆が黙っていたが
棺桶の錠「どうする? どうすんだよ!」
錠は一番奥にいたのだが、前まで歩いてきてしまった。
棺桶の錠「何をモタモタしているんだ。」
すると応えは
念仏の鉄「騒ぐなって。くっそう。おしんが一番気の済むにはどうしたらいいか、どう山城屋を仕置きにかければ思いが晴れるか。ああ、ちきしょう。ゾクゾクして来やがった。」
こうして仕置人はおしんの頼みをしかと聞き、出動したのであった。かくして山城屋は仕置され、豆の値段も下がったのであった。