交換(必殺仕置人)

必殺仕置人 第21話「生木をさかれ生地獄」(脚本:鴨井達比古、監督:長谷和夫 (C) 松竹)より

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第21話「生木を裂かれ生地獄」1973.9.8

 か弱き民の地所を取り上げる富商・札差の備中屋は勘定吟味役の平田と組み、佐渡の金の横流しを画策。彼らに踏み躙られた民の怨嗟を晴らしに佐渡まで赴き仕置の主水たち。備中屋は殺さず、水替え人足のなかに放り込むという処置がこの作らしいやり口。
仕置場所は坑道のなか。凝ったアングルで一人一人消してゆく仕置人たちの姿が描かれる。
主水が地所奪われ恋人を拉致された娘の訴えを聞かず死なせてしまううえ、錠の家でその棺桶の上に座り軽口を叩く場面と、人足に落とされた備中屋にかける台詞は対を成すように感じられる。また、今回佐渡と聞き激しい拒否反応を示す鉄が語る佐渡の生地獄のくだりも見せる。
*備中屋の用心棒の前で蝿を楊枝で仕留め怪しまれる主水、というシーンがあり後段でも主水は見張られていたりするがそれ以上の展開はナシ。

ロケ地
・釣りの主水と鉄に必死に訴えるお咲、大沢池畔(ちょっと判り難いが菱や睡蓮がうるさいくらい生えているので判断)。その後お咲が備中屋の駕籠の前に現れ斬りかかるシーンは大沢池畔で間違いなし。
佐渡へ囚人護送の主水、街道筋は北嵯峨農地か(地道)。

あらすじは上記の通りのこの話、小ネタも多い。鉄が5年も佐渡にいた事や、棺桶の錠が文字の読み書きができないので地図を写しとっても「これが字だってよ。」と鉄に笑われるなど。今回は鉄砲玉のおきんとおひろめの半次の登場はなし。佐渡への道中、主水はりつを連れて行く。ただ本筋は悲惨である。

仙吉(柴田侊彦)とお咲(西山恵子)は世帯を持つことを夢見ており、仙吉は家を買うための地所を払っていたのだが、その地所は彼のものにはならなかった。備中屋久兵衛(浜田寅彦)が勘定吟味方 平田石見守忠之(西沢利明)に手を回し、古い書き付けを持ち出して自分のものにしてしまったのだ。仙吉は罠に嵌められて罪人にされて佐渡へ送られ、お咲は訴状を出したが北町奉行に取り上げられず、うっかり再吟味の訴状を託されてしまった中村主水も、それは一度却下されたと知ると知らん顔を決め込むことにする始末。最終的にお咲は備中屋により平田の手に渡り、陵辱された。そしてお咲は死に、棺桶を売った棺桶の錠は死体の処理も請け負う羽目になった。

さて主水が棺桶の錠の家へ行き、棺桶の錠と念仏の鉄が暗い顔するのを見た。そして棺桶の上に座り、こう言った。

中村主水「どうした、二人とも。浮かない顔してよ。」

この後、散々、お咲が現れない、と軽口叩く主水に錠が言う。

棺桶の錠「棺桶から腰どかせ。」

主水が立ち上がると

棺桶の錠「中、見てみろよ。」

主水が座っていた棺桶の中身はお咲だった。衝撃を受ける主水へのトドメの一撃(大門豊談)を錠が放った。

棺桶の錠「首をつって死んだんだとよ。だがな、手首、足首に縄目の跡、体は傷だらけだ。おまけに乳房に歯形ときてるよ。」

死体の始末料五両とお咲が中村主水に宛てて書いた訴状とお咲の髪に隠されていたお金一両が仕置料となり、仕置人出動となる。

さて仕置の手口は大まかに書けば、仙吉と備中屋の交換。仙吉を始末しようとした森田源八(五味龍太郎)を棺桶の錠と主水が二人がかりで殺して仙吉を救い出し、後は「ネズミの穴」まで知っているという念仏の鉄の手引きで坑道を先回りし、備中屋の部下を次々と殺害。一番金の掘り出せる鉱脈を「廃鉱」にして金の横領を企んだ備中屋と平田の前に現れた。そして名乗る。

平田石見守忠之「貴様達、やっぱり大目付の手先か?」
中村主水「違う。仕置人だ。」

平田は主水に斬られ、備中屋は

念仏の鉄「殺しゃしねえよ。」

さてどうなるかといえば、備中屋は右腕に「サ」の字の刺青を入れられ、人足の中に放り出された。

役人「間違いない。要は頭数だけいればいいんだ。」

というわけで備中屋は

中村主水「備中屋、もう諦めな。おめえは今から死ぬまでここで働くんだ。来る日も来る日も水を汲んで働くんだ。そして一生かかってじっくりと考えろ。人間て物はな、自分一人座る場所さえあれば十分なんだってこともな。」

となるのであった。これは深読みすれば仙吉の地所を騙し取った件への罰とも言えるだろう。

備中屋と交換に江戸へ帰る仙吉は船の中でこう呟く。

仙吉「帰れる。江戸に帰れる。」

その仙吉はお咲が既に死んでいる事は未だ知らない…