インシデント(暗闇仕留人)

暗闇仕留人は第14話「切なくて候」(脚本:安倍徹郎、監督:渡邊祐介 (C) 松竹)の次に第15話「過去ありて候」(脚本:國弘威雄、監督:田中徳三 (C) 松竹)が放送されている。しかし、放送を観ていて違和感を覚える箇所が1箇所ある。それは第15話の次のやり取りだ。

村雨の大吉「おめえ、在所はどこだ? 江戸じゃねえだろ。」
おひろめの半次「調布の先の府中ってところだよ。もっとも親父もお袋もとっくの昔に死んじまったがな。」

このやりとりをするのがおかしいのだ。というのは第14話で大吉は半次に連れられて、武蔵の府中にある半次の実家へ行き、上述の内容を全て知っているはずだからだ。なので、そんな質問をするわけがないのだ。朝日放送でも脚本の直しを行なっていたのは別の記事で述べている。何らかの理由で放送の順番が入れ替わってしまったのだろう。

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その件について貴重な証言がこの本に載っていた。

rittorsha.jp

「暗闇仕留人」で制作補を務めていた田中浩三さんの証言である。以下、234ページから引用しよう。なお田中さんは東京にある石坂浩二さんの自宅へ脚本を届けに行く仕事を京都映画(現在は松竹に統合)の櫻井洋三プロデューサーの指示で行なっていた。

他にどのような仕事を?
田中 1話ずつ、16ミリの出来上がったものを持って朝日放送まで納品に行くのもぼくの仕事でした。だから東京へ行く、それから局へ行く。つまり主役へのスタートと完成したプリントを持っていく、最初と最後ですね。で、真ん中はもう何でもやる(笑)。忙しいというか“撮って出し”もいいとなんですよ。フィルムで納品しますから、毎回ギリギリ。
ところがあるとき、2本できたんですね。「あ、来週休める。余裕あるぞ」って2本同時に納品して、かんのんホテルで打ち合わせのあと、その放送を見ていました。朝日放送山内久司さん、仲川利久さん、櫻井さん、脚本家のみなさんで。そうしたら利久さんが「あれ、おかしい?」って言い出したんです。「これ、次の話だよ。今週のじゃない」って。
えっ?
田中 もう間に合わない。かといって別に連続ものじゃないから大丈夫なんだけど、そうしたらぼくに怒鳴るんですよ、櫻井さんが(笑)。「お前、なにしてたんだ!」って。そんなこと言われたって、ぼくには分かりませんよ。フィルムの缶に「○話」って書いてあるんだし…それしかわからないんだから、それを信じるしかないじゃないですかって言ったら、利久さんが「そりゃそうだよ」。なんとか利久さんが仲立ちして、助けてくれました。櫻井さんはもう助手に対してが厳しいばっかりでしたから。
津坂匡章(現・秋野太作)さん演じる半次の事実上の退場エピソードが第14話「切なくて候」で、次の第15話「過去ありて候」と入れ違いで放送されています。このときのエピソードですね。
田中 そうそう、「田中の初クレジット作だから一緒にみよう」と、誰かが言ってくれたんです。よりにもよって逆だったという(笑)。

なんと。よりによって2話出来上がった時に起きた取り違えだったのである。なお、半次退場については櫻井洋三さんが同書の38ページ目でこう証言している。

櫻井 東京から現代劇のオファーがあったんです、主役の。「櫻井さん、どうしてもやりたい」「それじゃあ、やりなさい」…そういう理由で降りた。ぼくの記憶だと、そうですな。揉めたんはひとりだけ、野川由美子だけや。

秋野さん主演ドラマの該当作はわからないのだが、この翌年から日本テレビで「俺たちの旅」が放送されるのであった。