仕上げ(暗闇仕留人)

暗闇仕留人 第17話「仕上げて候」(脚本:村尾昭、監督:三隅研次 (C) 松竹)より

糸井貢が否応なく大きな転換点を迎えてしまった話である。

ある日、橋を渡った貢は若い女の身投げを目撃。慌てて助けて自分の長屋へ連れ帰った。身投げしたのは名張屋の娘のおさよ(服部妙子)で父である名張屋が女中と心中事件を起こして縁談が破談になったのを苦にして身投げしたのだ。女中のおすえ(山岸映子)や手代の清二郎(山下洵一郎)が迎えに来て、おさよは帰って行った。その後、おさよは清二郎と祝言を挙げて名張屋を継ぐことになった。なおおすえの姉が名張屋の「心中相手」だった。

ところがこの事件には裏があった。おすえは名張屋の心中事件を調べ直してくれと中村主水ら北町奉行所に訴えに行っていたが、その疑念は的中。実は清二郎が仕上屋という裏の組織に頼み込んで仕組んだ事件だったのだ。仕上屋の元締は将棋会所を営む吉岡宗達(内田朝雄)。詰将棋の要領で何手も先を読んで、誰かを若年寄にする仕事まで請け負っていた。やがておさよは「二階から階段から落ちて」死亡。おすえから清二郎の心変わりを聞き、さらに清二郎がおさよを殺した疑惑がある話を聞いた貢。さらに階段に油が塗られていたことに瀕死のおさよが気づき

おさよ「この恨みを」

とおすえに言い残した話まで聞き、さらにおすえからお金まで受け取ってしまった。

おすえ「私にはこれが精一杯です。でもなんとかして恨みを晴らしたいのです。聞くところによりますと、この江戸に力のないものにどうにもできない恨みつらみを晴らしてくれる仕留人という稼業があるそうです。その仕留人の方を探し出すことはできないでしょうか。」

もう後戻りはできない。大吉とおきんは清二郎の仕業だろうと軽く考え、大吉は去ってしまったのだが主水は仕上屋の話を思い出して、こんな話を始めた。

中村主水「確かなことは何一つわかっちゃいないんだがな、仕上屋という稼業があるって噂がな。」

貢はハッとした。

中村主水「それは町奉行勘定奉行とが現職のお偉方を闇から闇へと始末してなあ、次の席にいるものを仕立て上げ、奉行の職にして金を取る。これもなあ、何年がかりでも見事に仕上げて何一つ証拠を残さねえやり口でな、俺は今度のはそれでないかと思うんだ。」

この主水の懸念は的中。主水は清二郎をしょっぴいたが仕上屋は北町奉行とも繋がっていたため「上からのお達し」で解き放つ羽目に陥った。仕方なく貢中心で探索に動いたのだが、貢の他、村雨の大吉が仕留人であることが仕上屋にバレてしまった。吉岡宗達は配下の勘助(浜田晃)にこう命じていた。

吉岡宗達「(仕留人は)無論、殺す。だが問題はこの仕留人達が何人いるかだ。二人を始末するのは簡単だが一人でも残れば我々にとってまずいことになる。人数を調べ上げて一人残らず始末するんだ。所詮はこの詰将棋と一緒だ。まあ、仕留人達の始末はじっくりとな。」

そして最終的にこの抗争の煽りで貢は最愛の妻あやを殺されてしまった。屋台に轢かれたのだ。

糸井あや「私は、とても、幸せでした。あなたと、一緒になれて…」

貢は何度も「あや」と呼び、傍にあった簪を手に取った。話を聞いた主水も駆けつけ、それから番屋で主水、貢、大吉、おきんは話し合い、仕上屋をやる算段をつけるのであった。

まず貢は清二郎を三味線のバチで斬った。次に大吉が勘助を倒した。主水は宗達のところに乗り込んで将棋の相手をしていたが長考した挙句

中村主水「どうやらこの手しかねえようだなあ。」

主水は王将を手で取ってしまった。宗達は主水が仕留人だということを見抜いていた。そして主水は雑魚を斬りまくった。残るは宗達ただ一人。そこへ貢も駆けつけた。手に持つのはあの簪。一度宗達の背後から首を刺した後、仰向けに寝かせて喉を刺した。事後、貢の表情はやはり複雑。思い詰めた感じで血のついた簪を持っていた。

翌日。糸井あやの墓参りをする主水、大吉、おきん。貢の行方は知れなかったのだが、墓には新しい花が備えられ、線香の煙が舞っていたのであった。貢が来たのは間違いない。しばらく辺りを見回す三人であった。