緊急対応 その2(新・必殺仕置人)

新・必殺仕置人 第10話「女房無用」(脚本:中村勝行、監督:松野宏軌 (C) 松竹)より

今回の寅の会はいつもと違っていた。虎が挙句を書こうとしなかったのだ。思わず周りを見回す鉄。

吉蔵「事情がございまして本日の挙句は皆様の中より頂戴いたす事になりました。」

仕置人の一人が短冊を書いて吉藏に渡した。

吉蔵「ご披露いたします。

両国やあ
命運相模に
惣五郎」

実際は冒頭で描かれているのだが、挙句を書いた仕置人の配下がしくじり、一人捕まってしまったのである。鉄が横の仕置人に耳打ちする間に

吉蔵「ご承知のように、この仕事は前回十両にて落札となった分でございますが、本日をもって期限切れとなりました。これにつきまして、詫び句を一言いただくことになっております。どうぞ。」

しくじった仕置人が状況を説明した。その後

吉蔵「頼み料は前回の十両に詫び料二十両が上積みされまして三十両。どうぞ。」

で結局念仏の鉄が三十両で競り落とした。

死神「二度ト失敗ハ許サレナイ。次ノ寅ノ日マデ仕置シテモラオウ。」

鉄は頷いた。

死神「コノ仕事ニハ寅ノ会ノ命運ガカカッテイル。」

さて絵草紙屋の地下室。

おてい「借金の片を引き取ってまいりました。」
正八「鉄、ちょいと貸し。」

しかし、鉄は無言。巳代松は腕組みし、主水も神妙な面持ちである。一応、正八は聞いた。

正八「何考え込んでるの?」
おてい「例のことでしょ。」
正八「ああ仕事か。聞いたよ、おていに、来る途中。」

今回の相手は相模屋惣五郎(神田隆)というヤクザ。なので

正八「俺は降りるよ。」

主水が口を開いた。

中村主水「なあ、鉄。惣五郎ってのはなあ、表向きは口入稼業ってのをやっているが両国界隈では隅から隅まで顔の知れた香具師の元締…」
念仏の鉄「(即座に)そんなことは知ってるよ。俺が聞いてるのはやるのかやらないのか二つに一つだ。」

主水の答えは

中村主水「俺はやめるさ。」
念仏の鉄「おい、八丁堀、これはただの銭儲けじゃないんだぞ。寅の会の殺し屋が一人捕まっている。」
巳代松「ほんとか?」
念仏の鉄「俺達は喉元に匕首突き付けられているようなものだ。おめえ、それでも降りるってのか。」

主水の答えは変わらなかった。

中村主水「誰が捕まったのかは知らねえが殺されても口を割らねえのが、この裏稼業の仁義ってものだ。どうせ、ろくな死に方をしねえだろうなあ。兎に角、それまで1日でも長生きをしておくのが正解だ。けえるぞ。」

主水はそのまま帰ってしまった。

正八「さ、俺も商売始めなくちゃ。」

だが

念仏の鉄「待て。」

鉄は正八を引き留めて更に

念仏の鉄「てめえ、いつからそんな腑抜けになった!」

鉄は正八をぶん殴った。それがきっかけで鉄と正八は殴る蹴るの喧嘩を始める始末。巳代松が仲裁に入って止めた後

巳代松「俺はやる。念仏、八丁堀の話は間違っちゃいねえ。うん。おそらく人質は死んでる。奴ら、生き恥晒すような連中じゃねえや。」
念仏の鉄「当てにならねえ。」
巳代松「おめえはどう思おうと、この仕事は同業者の弔い合戦だ。俺はそのつもりでやるぜ。」

鉄は正八の方を向いた。その後、鉄はおていの方を向いた。結果、四人はこの仕事に参加する事になったのだ。

だが主水は否応なく仕事に関わるハメに陥ってしまった。主水は政吉(常田富士男)を微罪で捕まえたのだが、これが災難の元だった。実は政吉は元はただの船頭だったのだが、惣五郎の元で阿片の運び役をやらされていた。政吉がその事に気がついた時には既に時遅く、妻のお久(和田かつら)も阿片漬けにされて最終的には中毒で死んでしまった。なので

相模屋惣五郎「中村主水、よっしゃ。」

りつがさらわれ、阿片窟に閉じ込められてしまった。主水のところには脅迫状が渡された。

中村主水「政吉を解き放て。さもなくば女房の命はない。」

ガーン。政吉からも話を聞き、主水は事態を理解した。

中村主水「(心の中で)こいつは頼み人か。」

そして主水は絵草紙屋の地下室にやってきたのだが

中村主水「おう。元気かい。」

だが鉄は無視。

巳代松「何しに来たんだい?」

主水は降りると言った手前、こう言わざるを得なかった。

中村主水「外はいい天気だぞ。え。おめえ、表出たら日向ぼっこでもしろい。おう。土産だ。饅頭。」
おてい「どういう風の吹き回しなの?」
念仏の鉄「おおかた、女房にでも着物でもせびられてよ、銭が欲しくなったんだ、なあ?」

これを聞いて主水はバツが悪くなってしまった。

中村主水「そんなことはどうだっていいじゃないか。それより仕事だ、仕事。仕事の方、どうなっている?」
巳代松「まだだ。」
念仏の鉄「正六、正八、解散。」

仕方なく

正八「今、行こうと思ってたのに、言うんだからあ。おてい、行くんだ。」

正八は饅頭を持ったまま出て行った。

おてい「なんであたしに当たるのよ。」
巳代松「さあ、そろそろ俺達も引き上げようぜ。」
念仏の鉄「ああ。」

慌てて主水はこう言った。

中村主水「饅頭食ってくか?」
巳代松「いらねえよ。カミさんにでも持って帰ってやりなよ。」
中村主水「それが、かかあが…」
念仏の鉄「かかあがどうしたんだよ?」
中村主水「いや…」
念仏の鉄「なんだよ。何が言いてえんだよ。」

結局、主水は本題に入れずに帰って行った。

念仏の鉄「なんだ、あの野郎。」

主水は歩きながら悩みまくった。

中村主水「りつにもしものことがあったら、俺と中村家は無関係。三十俵二人扶持の同心株はババアのものになる。俺の立場はどうなる?」

まさに緊急対応を迫られていたのだが、この続きは映像で確認してほしい。