詐欺(新・必殺仕置人)

新・必殺仕置人 第37話「生命無用」(脚本:松原佳成、監督:高坂光幸 (C) 松竹)より

苦しい題名だけどお話全体も今回の小ネタもこう言う話だから仕方がない。

さて巷では質屋の大黒屋七兵ヱ(天津敏)が阿漕な商売を行なっていた。呉服屋の結城屋の手代勝次(島米八)がなんと店で売られている反物をいくつも大黒屋に質入してしまった。番頭の九助(鶴田忍)はそれを受け取り

九助「一両でお預かりしましょう。」

と答えた。七兵ヱは質札を二枚(これがポイント)書き、そのうち一枚を九助に渡した。

九助「では、一両とこちらが質札ですよ。」

そんなカラクリとなっているとは知らない勝次は質札と一両をありがたく頂戴した。

勝次「月末には必ず受け出しに参りますので。」

と念を押し、九助も「はい」と答えた。大黒屋の魂胆を勝次は気がついていなかった。

さて勝次が帰った後、店の別室では

九助「こいつは上物ですぜ。一本二両は致します。」
大黒屋七兵ヱ「一両で売っても(四本あるので)四両の稼ぎにはなる。」

こうやって質入された商品を「質流れ」としてサッサと売ってしまう手口で阿漕に稼いでいたのである。しかも大黒屋は熊吉(五味龍太郎)と言う岡っ引きとも組んでいた。本当にやりたい放題やっていたのである。

さて大黒屋の手口が奉行所でも問題になった。中村主水は給金を受け取ったついでに大黒屋へ立ち寄って調査。そこで正八と出会し、小ネタとなるべきやり取りがあったが長くなるので割愛しよう。その後、正八にも(一応)表の仕事で調査してくれと頼んだが、直後に

中村主水「実は今日、給金貰ってきたんだが、このまま帰るとそっくりそのまま、かかあ(りつ)に吸い上げられちまうんだ。」

と言う辺りから話がおかしく、もとい、面白くなってきた。主水はへそくりを作ろうとして小悪事を考えていたのだが

正八「旦那もそこまで考えているなら、もうちょっと、もう一捻りして見なきゃ。あのねえ、そう言う時はほら、カミさんの喜びそうな反物かなんかをね、安く買ってって、高く買ってきたぞうって。」

と言うわけで主水は作戦実行。うまい具合に観音長屋で大黒屋の手下の銀平(高峰圭二)が泥棒市で反物を売っていた。

銀平「旦那、怪しい品物じゃありませんぜ。」
中村主水「これは結城屋の品だなあ。これがおめえ、どうしてこんなところで売ってるんだ。」

とほざいているところへ正八もやってきた。なお当時はどうだったのかは知らないが、高峰圭二さんも関西出身で星野事務所出身。と言うことは火野正平さんとも子役時代からの仲間だったことになるねえ。閑話休題

銀平「大黒屋の質流品ですから間違いありませんてえ。」
中村主水「ああ、そうかい。で、これいくらだい。」
銀平「一反一両。」
中村主水「一両? じゃあ、結城屋行ってみるかな。」

このハッタリ攻撃は効き、最終的には二反で一両で買い叩くことができた。そして差額は主水のへそくりになった…と思ったら、そうは問屋が卸さない。

せんとりつは主水の言い分を信じたものの、反物を見ながら

中村りつ「でも母上。でもこの着物でしたら新しい草履を買いたいし…。」
中村せん「うーん、ホントに。」
中村りつ「そうだ。結城屋さんに持ってって、もっと悪い反物に落としてもらって、浮いたお金で私達の草履を買いましょう。」
中村せん「流石は我が娘、良いところに気がつきました。」

となってしまったから、さあ大変。雲行きが怪しくなってきた。

正八は調査の結果を知らせに主水の役宅へ行ったのだが

正八「ねえ、旦那。カミさん(りつ)、結城屋へ行ったよ、反物を取り替えに。」
中村主水「結城屋?」
正八「うん。オバさん(せん)と一緒に。」

ガーン! 主水は正八の話を聞くどころではなくなり、障子を閉めてしまった。それを見て正八もピンと来た。

正八「これ、結城屋、行った方が面白そうだなあ。大黒屋は後。」

正八の予想は的中。せんとりつは結城屋へ行って交渉したのだが、反物を見た手代の勝次は大慌て。なんと大黒屋へ行ってしまった。質入したものと全く同じ反物だったのである。だが大黒屋の答えは

大黒屋七兵ヱ「何度おっしゃられてもそこにちゃんとその証拠があるじゃないですか。ほれ。買受証文とねえ。あんた、字が読めるんでしょう。」

しかも勝次は即座に熊吉に捕まってしまった。その罪は品物の横領。熊吉は大黒屋とグルなので勝次の言い分が通るわけがなかった。その様子をしっかり正八も目撃した。

さて話はこれで終わりではない。

結城屋の主人「この反物は先日なくなりましたもので。」

と言うわけで揉めに揉めた末にせんとりつは真実を悟ったようだ。

場面変わって中村家。障子が閉まっている前で中村主水が昼飯を食べていたのだが、食べている最中に障子が開いた。座っているのは母上と妻。せんとりつの凶悪な言葉が始まった。

中村せん「婿殿。結城屋へ行って全てがわかりました。」
中村りつ「あなたのさもしい養子根性にはほとほと愛想がつきました。母上と相談の上、今日ただいま限り、この中村家を出て行っていただきます。」

ガーン! さてここから『必殺仕業人』で悲惨な場面のために作られた曲が流れるのがおかしい。主水の心情を表現しているのだろう。

中村せん「私ども、これから素晴らしい養子を迎え、再出発いたします。至らぬとは言え、主水殿、よくぞ中村家のために今まで尽くして下さいました。どうぞ、お達者で。」

障子が閉められようとしたので

中村主水「ちょっとお待ちください。悪うございました。全ては私の不徳が致すところでございます。しばらくの間、謹慎をさせていただきますので、(懐から一両を出して置きながら)何卒、平に御勘弁を。」

せんとりつは顔を見合わせ、せんは戦慄した主水が置いた一両をとりながら

中村せん「それほどまでに仰るのなら、しばらくの間、様子を見させていただきます。いえ、婿殿を許したわけではございません。この一両に免じて許したのですぞ。わかりましたね。」

そして障子が閉められた。

中村主水「まいったな、こら。」

即座に正八が別の入り口から入ってきた。当然、あのやり取りを覗き見していたのである。

正八「旦那、大変なんだねえ。」
中村主水「シー!」
正八「養子って辛いんだねえ。」

そして大黒屋の悪事を報告しようとしたのだが

中村主水「その大黒屋のためにえれえ目にあったんだ。」

と八つ当たりされてぶん殴られる正八であった。