謝罪(暗闇仕留人)

暗闇仕留人 第27話「別れにて候」(脚本:國弘威雄、監督:松本明 (C) 松竹)より

再び黒船が来航し、江戸が騒然とする中、糸井貢はグラマチカ、すなわち蘭学の辞書を古本屋に売りに来ていた。そこへ中村主水がやってきた。売り払う理由は

糸井貢「二度と見たくないんでな。」

だが古本屋はいなかった。貢は主水にグラマチカを渡したまま出て行ってしまったので主水は追いかけた。世情を嘆く主水。貢はやはり開国派。貢は松平玄蕃の娘(西崎みどり)に油絵を教えていた。貢自身は松平玄蕃頭(戸浦六宏)に会った事などなかったが

糸井貢「奥さんを亡くされたんだが、娘のためにと後添えを貰わないような方だ。あの方なら開国を恐れる老中達を説得されるだろう。」

と期待していた。

だが今回は皮肉にも松平玄蕃頭が標的となってしまうのである。松平玄蕃頭は根岸屋治兵衛(福田豊土)が持ってきたアヘンを好んでいた。しかも松平玄蕃頭は根岸屋の世話で四谷に愛人を囲っていたのだが

松平玄蕃頭「あの高台の寮から下々の家が見えるな。江戸の町人、百姓、あの愚民どもの家や姿が見える。目障りだな。」
根岸屋治兵衛「はい。」
松平玄蕃頭「わしはな、真っ直ぐに海を見渡したいのだ。真っ直ぐに異国に通じるあの海をな。」

というわけで地上げが始まった。長屋は取り壊されたのだが、立ち退こうとしないものがいた。鶴吉(浜村純)とおはつ(関根世津子)親子である。根岸屋の番頭と主水に鶴吉はこう言い放った。

鶴吉「俺は知ってるんだ。この辺りの土地を買い占めているのは、あの高台の松平様だ。それもあの妾の寮のためだ。寮の辺りの…」

なので鶴吉はテコでも動こうとはしなかった。火事で長屋が焼けても焼け跡に杭を打って家を立て直そうと居座る始末だ。瓦版屋もこの事件を取り上げた。事ここに至って根岸屋は鶴吉にアヘンを一度に大量に飲ませて川に落とし、「酒に酔って落ちた」ことに見せかけて殺してしまったのである。その現場に貢も居合わせた。

ここで大まかな流れは見えたと思う。主水、大吉、おきんは松平玄蕃頭と根岸屋を標的に一仕事しようと考えたのだが、貢は反対するのである。曰く

糸井貢「近頃、何もかも嫌になってきた。思いっきり考えてみたい。俺達は何のために生きてきたか、何のために人殺しをしてきたのか。」

貢の苦しみがわかる主水にはこの問いに答えられなかった。単細胞(自分でも貢のことを「奴は俺と違って学があるからな」と言っている)の大吉は

村雨の大吉「何のために生きる? 決まってるじゃないか。食うためだよ、なあ。」

と言い切った。主水は貢を追いかけた。川の岸辺で主水は貢に追いついた。

糸井貢「すまん。だがなあ、前から考えていたことなんだ。なあ八丁堀、俺達は今まで何をしてきたんだ。世の中、動いてる。この川だって、オランダや、アメリカや、イギリスの都ロンドンのテームズ川にだって繋がっているんだ。」
中村主水「だからどうだって言うんだ?」
糸井貢「だから俺達は何をしたかって言ってるんだ。少しでも世の中良くなったか? 俺達にやられた奴にだって妻や子がいたかもしれないし、好きな奴があったかもしれないんだ。」

そこへ大吉とおきんも来てしまった。おきんはおはつを連れてきたと言うのだ。根岸屋がおはつを引き取ろうとしているという。おきんと大吉がおはつから話を聞くのを主水は盗み見していたが埒があかないので立ち去った。

そして最終的におはつはおきんのところから立ち去った。おきんの元には四両置かれていた。鶴吉が死ぬ前に、自分に万一のことがあったら仕留人に頼んでくれ、とおはつに言い残して預けた金だったのだ。

貢も呼び出され、おはつの残した書状を読まされた。貢の決意は変わらなかったのだが、主水は説得した。それに対し

糸井貢「しかしなあ、今度やろうという相手、松平玄蕃頭、その身辺は確かに清廉潔白であるとは言い切れぬものがあるかもしれん。しかしなあ、彼の幕閣における見識、国を開こうという勇気は今の幕府にはなくてはならんものなのだ。その人の一面だけを捉えて糾弾するのは間違ってるとは思わんか?」

大吉は被害者の心情を元に反論。主水は一晩考えろと言って大吉と共に立ち去った。

そして翌日。貢は川の岸辺で考え込んでいた。そこへおきんと大吉がやってきた。やはりおはつが松平の屋敷に慰み者としてあげられる様子だと告げた。「無駄だ」と言う大吉に対し、おきんは最後まで話をした。ついに

糸井貢「俺も行くよ。だがな、八丁堀に言ってくれ。これが最後だ。最後にさせてもらうってな。」

そして夜になった。松平玄蕃頭の屋敷におはつが連れ込まれた。主水達も松平玄蕃頭の屋敷に乗り込んだ。まず主水が三下を始末した。そして村雨の大吉が根岸屋を始末した。次は松平玄蕃頭の番である。貢が矢立を手にして襲い掛かった。

松平玄蕃頭「わからんのか。(ここからエコー付き)わしを殺せば日本の夜明けが遅れるぞ!」

これを聞いた貢の手が止まってしまった。その隙を突き

松平玄蕃頭「馬鹿者めが。」

なんと貢は斬られてしまった。明らかに人選ミスだったと思うのだが、多分、貢が自分がやると言ったのかもしれない。倒れる貢。二太刀目が浴びせられた。駆けつけた主水と大吉が松平玄蕃頭を殺した。

大吉と主水は貢を運び出した。

村雨の大吉「貢、俺が殺してしまった。」

大吉は号泣。おきんも驚いた。主水は命じた。

中村主水「石屋、やるんだ。」
村雨の大吉「何を?」
中村主水「なんとか、生き返らせるんだ。」

主水は大吉に心臓マッサージを命じたのだ。これ自体は既に行なっている。

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大吉は心臓マッサージを行なった。大吉は脂汗を浮かべた。貢の心臓が再度動いた。そして目を覚ました貢はこう言った。

糸井貢「すまなかった。」

これが遺言となった。全員、絶句。貢を死なせたのは自分達だったのかもしれない。立ち去る舟の上で主水は決意した。

中村主水「糸井、短え付き合いだったなあ。」
鉄砲玉のおきん「八丁堀。」
中村主水「俺達もここで別れようぜ。今が潮時なのかもしれん。糸井がそれを教えてくれたんだ。」
村雨の大吉「八丁堀。」
中村主水「さあ、糸井を送ってやろうぜ。」

主水は糸井が残したグラマチカを手に持ってこう言った。

中村主水「糸井はこれと一緒に海の上へいきたかったんだ。」

主水はグラマチカを貢の懐に入れた。

中村主水「行ってこいよ。海の向こうへな。」

そして貢の死体を戸板に縛り付けて川に流した。その様子をずっと見送る三人。そして雪降る中、主水は横浜で行なわれるアメリカとの話し合いの警護役に選ばれたため、せんとりつに先祖伝来の鎧兜を着せられたのだが、重くて身動きが取れなかった。同じ頃、「旅愁」が流れる中、松平玄蕃の娘も巡礼の旅に出た。おきんはおはつに見送られて江戸をたち、大吉は妙心尼に「行ってはなりませぬ」と言われて立ち去った。貢を載せた戸板が映った後、主水は一人、江戸に残るのであった。

なお今回のエンディングはいつもと違って二番が流れたのであった。